最新記事

少子化対策

子どもをもつと収入が70%も激減 世界が反面教師にしている日本の「子育て罰」

2023年3月24日(金)13時30分
浜田敬子(ジャーナリスト) *PRESIDENT Onlineからの転載
寝ている子供の横で悩んでいる女性

*写真はイメージです yamasan0708 - shutterstock


なぜ日本の少子化は止まらないのか。ジャーナリストの浜田敬子さんは「自民党を中心に、子育ては家庭が責任をもつものであるという家族主義的な考え方が根深い。そのため、子育て世代にとって本当に必要な支援とはならない的外れな対策ばかりになっている」という――。


30年以上も少子化対策をやっているのに効果なし

年明けに岸田首相が「異次元の少子化対策をやる」とぶち上げて以降、議論が沸騰している。首相だけでなく、与党幹部が発言するたびに、そのズレっぷりが子育て世代や若い世代の怒りを買っている。

出生率が大きな議論になり始めたのは1989年に1.57になってからだ。当時は1.57ショックという言葉まで生まれ、1992年に出された「国民生活白書」のタイトルが「少子社会の到来〜その影響と対策」と名付けられて以降、少子化という言葉は広がった。

だが、それから30年余り。数々の少子化対策と銘打った政策が手を変え品を変え試されてきたが、効果を上げているとは言えない。

30年にわたり少子化問題を研究してきた中央大学の山田昌弘教授は著書『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の理由』(光文社新書)の中で、欧米の研究者やジャーナリストからよく、「なぜ、日本政府は少子化対策をしてこなかったのか」という質問を受けるという。

さらに、いま少子化という問題に直面している、あるいは近い将来直面するだろう東アジアの国々は、「日本のようにならないためにどうすればいいか」と、反面教師として日本を研究していると書いている。

子育てのことを理解していない政治家たち

海外から「無策」「失敗例」として見られている事実を謙虚に受け止め、いい加減、これまでの日本の少子化対策がなぜ成果を挙げてこなかったのか、きっちり検証する時期ではないのか。政府も何もやってこなかったわけではないが、効果を上げていないとすれば、場当たり的で小手先の対策が繰り返され、本質的な問題が解決されていないからだ。その証拠がズレた政治家の認識なのだ。

彼らは子育ての孤独や苦労も仕事と子育ての両立の困難も、教育費の負担の重さも、さらには結婚して子どもを持つという未来さえ抱けない若い世代の閉塞(へいそく)感や希望のなさも本質的に理解していないと思う。今、過去の自民党閣僚や議員の発言まで槍玉に挙がっているが、そこから明らかになるのは、いかにこの国、特に自民党が子育てや教育を家族や個人の責任に押し付けてきたかということだ。

「晩婚化」発言に見る、なんでも「女性のせい」

「異次元の少子化対策」後、最初に非難を浴びたのは、「(少子化の)一番大きな理由は、出産するときの女性の年齢が高齢化しているから」という自民党の麻生太郎副総裁の発言だった。この人のズレっぷりにはもはや驚きもしないが、自民党の高齢重鎮政治家たちが繰り返してきた、少子化の原因を女性の社会進出や晩婚化のせいにするという発言には毎回怒りを覚える。

シカゴ大学の山口一男教授は早くから、急激な少子化の要因を女性の非婚化、晩婚化だけに帰することに警鐘を鳴らしている。

山口氏の「少子化の決定要因と対策について:夫の役割、職場の役割、政府の役割、社会の役割」という報告書によると、少子化の主な要因は女性の非婚化と晩婚化であることに一定の根拠はあるものの、急激な少子化を経験している日本や韓国、スペインなどの国は他の先進国に比べ、妻の家事育児の負担が高く、「家族に優しい」職場環境も整わず、女性が出産で離職した後の再就職が困難だという共通項があると指摘している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

海運マースク、第1四半期利益が予想上回る 通期予想

ビジネス

アングル:中国EC大手シーイン、有名ブランド誘致で

ビジネス

英スタンチャート、第1四半期は5.5%増益 金利上

ワールド

トルコ製造業PMI、4月は50割れ 新規受注と生産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 8

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 9

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中