最新記事

エンターテインメント

BTSはただのアイドルではない、ARMYは世界規模で「善」を促進する

BTS SAVING THE WORLD?

2022年4月1日(金)16時50分
ムスタファ・バユミ(ニューヨーク市立大学ブルックリン校教授)
BTS

BTSは言葉や文化の壁を越えて楽観主義の好循環を生み出している(左からJUNG KOOK、V、SUGA、JIN、RM、JIMIN、J-HOPE) MIKE BLAKE-REUTERS

<BTSのことを、まだ誤解している人がいるかもしれない。2022年グラミー賞にシングル「Butter」がノミネートされているが(発表は日本時間4月4日)、その世界観にしびれた熱狂的ファンは極右勢力と戦って人類に希望をもたらそうとしている>

※本誌4月5日(火)発売号は「BTSが愛される理由」特集です(アマゾン予約はこちら

さあ戦争が始まった。ウクライナではないし、普通の戦争でもない。

一滴の血も流れていないが、侮るなかれ。この激突に妥協はなく、シビアで、今の時代のイデオロギー対決を反映している。

一方の側には、昨年1月6日に角付きの毛皮帽をかぶり米連邦議会議事堂を襲撃した極右の男たちがいる。対するは、パソコンやスマホの画面にかじりつく熱烈なファン軍団。まさしく究極のポストモダンな戦争だ。

それはアメリカの極右陰謀論者とKポップの、私たちの未来を懸けた壮絶な対決だ。

ありがたいことに、この戦争においてはKポップ側──つまりテクノロジーを駆使してシンセサイザーで音を作り、指を鳴らしたくなるほど明るくて青春全開の韓国製ポップミュージックが勝ち続けている。

その証拠となる記事が今年2月、米ニュースサイト「レディット」に投稿された。

その投稿者が言うには、投稿者の「リベラルな左翼おばさん」は一時期、なぜか「民主党やハリウッド系セレブは人肉を食い、人身売買をしているというQアノンの陰謀論にはまっていた」。しかし彼女は、突然「Qアノン系の話をしなくなり、再びリベラルな人に戻った。どうしたの? まさか認知症? それとも脳卒中?」

いや、違う。この投稿者のおばさんを救ったのは韓国出身の7人組ボーイズグループ、BTS(防弾少年団)だった。

「『Dynamite』がリリースされると、彼女はすぐKポップに夢中になった」と投稿は続く。「Dynamite」はBTSが初めて英語で歌って大ヒットした曲だ。

「今の彼女はメンバーの名前だけでなく、彼らの母親の名前も好きな食べ物も知っている。彼女が言うには、BTSを見たら自分もベターな人間にならなくちゃと思ったとか。確かにBTSは人種差別反対の声を上げ、募金もしている。それで、私のおばさんはARMY(アーミー)になった」

magSR20220401btssavingtheworld-2.jpg

ARMY(BTSファン)のアクティビズムは団結するファンの数が多いからこそ威力を発揮する AP/AFLO

ARMYはBTSのファン集団を指す語で、「若者を代表する魅力的な進行役」の略。そして世界規模で強力な「善」を促進する勢力だ。BTSが表現する「ラディカルでポップな楽観主義」を掲げ、「世界を癒やす」ためのグローバルな資金調達キャンペーンを展開する。

地球上の何百万人ものファンで構成されるARMYは、南アフリカのレイプ被害者救済からエクアドルの植林事業まで、あらゆる目的のために資金を調達している。

ほとんどの寄付は比較的小規模で、それほど政治的ではない。

だがBTSが2020年にBLM(ブラック・ライブズ・マター=黒人の命は大事)運動に100万ドルを寄付して人種差別に立ち向かうと、ARMYも独自の募金活動を行い、たった25時間で同額の100万ドルを集めてみせた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中