最新記事

サバイバル

無人島にたどり着いた日本人たちがたらふく味わった「牛肉より美味い動物」とは?

2021年9月7日(火)20時25分
椎名 誠(作家) *PRESIDENT Onlineからの転載

19世紀末、16人の日本人が無人島に漂着。彼らは何を食べて生き延びたのか── *写真はイメージです simonbradfield - iStockphoto


1899年、漁業調査をしていた日本の帆船が座礁し、16人の乗組員が太平洋の無人島に漂着した。彼らは十分な食糧をもっていなかったが、島にやってくるある生き物のおかげで「贅沢」とも言える食生活をおくったという。作家の椎名誠さんが解説する――。

※本稿は、椎名誠『漂流者は何を食べていたか』(新潮選書)の一部を再編集したものです。

門外不出の『無人島に生きる十六人』

漂流記にはカテゴリーがいくつかある。江戸時代の千石船の漂流などは、当時の日本の鎖国政策が背後に冷酷に関与していて、遭難漂流の原因は類型化している。

もっとも恐ろしく世界にも例のない漂流は意外なことに日本でおきたもので『流れる海 ドキュメント・生還者』(小出康太郎著、佼成出版社)だろう。これは30年ほど前、モリ突きのダイバーがアクシデントで3日間流されてしまう、という残酷きわまりない漂流体験だ。ぼくもダイビングをやるので、その恐ろしさは具体的に想像できる。

そういういろいろな漂流記を捜しもとめていた頃、むかしの資料に垂涎(すいぜん)もののタイトルを見つけることがあった。古文書などは持っているものが多かったが1冊、古い広告チラシで古色蒼然(こしょくそうぜん)とした装丁のボロボロの本の写真が目にとまった。

『無人島に生きる十六人』(須川邦彦著)である。四六判ハードカバー。内容紹介や帯などはないからそれがどういう本なのかそれ以上くわしくはわからなかった。タイトルからして『十五少年漂流記』に似ている。子供向けのボーケンものか。講談社の本だった。古い本とはいえ一流出版社から出たものだ。

仕事がら講談社にはあちこちの部署に知り合いがいる。さっそく問い合わせてみた。3~4日ほど時間がかかったが様子がわかり予想したとおり、もう絶版であるという。

「おたくの図書館にもないのですか」

素直な編集者ですぐに調べてくれた。

「図書館にもなくて資料室にたった1冊ありました」

おお。よくぞそこまで調べてくれた。

「ただしですねえ。この本は当社にも1冊しかないそうで、門外不出扱いになっているんです」

漂流記フリークとしては、こういう門外不出というのは殺し文句に等しい。ぼくはその編集者にネコナデ声で、そんなに急がなくてもいいからそれ全編コピーして貰えないだろうか、と頼んだ。本心は「今すぐコピーしてそのまま送ってくれえ!」だった。

「あっ、それなら簡単ですよ」

いい奴なのだった。こいつとはこれからもっといい仕事をしよう。

books20210907_b.jpg手に入ったその日のうちに読んでしまった。最初に疑ったのを詫びるほどに実にまったく面白い。面白すぎて日本の明治時代にジュール・ヴェルヌみたいな人がいてその人が書いたのではないかとさえ思った。

題名のように16人のおじさんや青年の乗った船が太平洋のまっただなかの無人島に漂着し、そこで苦労してサバイバル生活をおくる話だ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ガザ南部、医療機関向け燃料あと3日で枯渇 WHOが

ワールド

米、対イスラエル弾薬供給一時停止 ラファ侵攻計画踏

ビジネス

米経済の減速必要、インフレ率2%回帰に向け=ボスト

ワールド

中国国家主席、セルビアと「共通の未来」 東欧と関係
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中