最新記事

日本社会

「生き残りの鍵は『日本の社会主義化』 中韓が市場を奪取」中野剛志氏

2020年5月1日(金)17時35分

評論家の中野剛志氏は、ロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスによる「恐慌」を乗り越えるには国内総生産(GDP)の5割を超える大規模な財政出動が必要で、政府が重要産業に資本を注入するなど社会主義的な措置が求められるとの見方を示した。写真は日没時の東京。2017年3月撮影(2020年 ロイター/Toru Hanai)

評論家の中野剛志氏は、ロイターとのインタビューで、新型コロナウイルスによる「恐慌」を乗り越えるには国内総生産(GDP)の5割を超える大規模な財政出動が必要で、政府が重要産業に資本を注入するなど社会主義的な措置が求められるとの見方を示した。感染拡大期が主要各国より遅れて訪れた日本は終息のタイミングも後ずれし、先に経済活動を正常化させた中国や韓国に市場を奪われる恐れがあるとの見通しも示した。

政治経済思想を専門とする中野氏は、政府がいくら借金しても破たんしないとして積極的な財政出動を唱える経済理論、「現代貨幣理論(MMT)」をいち早く日本に紹介したことで知られる。

強いデフレ圧力

中野氏は新型コロナによる日本経済への影響を、雇用面から2008年の世界金融危機の際と比較。非正規雇用の割合が当時の33.7%(2009年)から38.3%(2019年)へと増加していることから、失業率はあの時より悪化しやすい状況にあり、「おそらく5%台では済まない」と指摘した。

さらに日本のGDPの6割を占める個人消費について、7都府県に非常事態宣言が出された際に、全国で4兆9000億円の減少が予測されるとした、りそな総合研究所の試算にも言及、「消費税によりさらに10%も購買力が奪われるわけで、想像を絶する事態だ」と語った。

中野氏は、一部医療物資の不足やサプライチェーン(供給網)途絶による物価高騰の懸念を指摘する一方、経済活動の停止と需要不足による「デフレ圧力の方がはるかに強い」と指摘。「特に中国、韓国、台湾が先に生産活動を再開し、余剰の製品を安い価格で大量に輸出するだろうから、さらなるデフレ圧力が加わる」と予想した。

中野氏はこれを「恐慌」と表現し、「政府支出を空前の規模で拡大する以外にない。GDPに占める政府支出の比率を5割以上、あるいは6割以上にしてでも、事業を継続させ、雇用を維持する必要がある」と語った。さらに、労働者の給与を財政から直接支払うほか、政府が雇用を拡大、医療物資の生産・調達を主導し、重要産業へ資本を注入する必要性も出てくるとした。

中野氏は「もはや社会主義と言ってよい。しかし、イデオロギー上の好悪を超えて、一時的に社会主義化しないと、このコロナ恐慌は到底、克服できない」と述べた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB高官、利下げ開始に慎重 「数カ月確認必要」と

ワールド

中国の過剰生産能力、G7の共同対応が必要と米財務長

ワールド

シンガポール航空機、乱気流で緊急着陸 乗客1人死亡

ビジネス

イーサ現物ETF上場承認に期待、SECが取引所に申
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中