コラム

トランプ派がテイラー・スウィフトを恐れる本当の理由は、2人の意外な共通点にあり?

2024年02月16日(金)17時00分
テイラー・スウィフト

スウィフトがバイデン側の工作員という陰謀論が広められている MARIO ANZUONI―REUTERS

<セレブの支持がそんなに怖いのか? トランプ派が「スウィフト陰謀論」まで流すほど脅威を感じる納得の理由とは>

アメリカの有権者がこの10日間で最もよく見聞きした大統領選がらみの話題は、「テイラー・スウィフト」だった。

グラミー賞で史上最多4回目の最優秀アルバム賞を獲得、受賞スピーチの壇上で新アルバムのリリースをサプライズ発表したシーン。そしてトランプ前大統領支持派の間でささやかれるCIAの秘密工作に関する陰謀論──この億万長者の人気歌手はアメリカンフットボールのスーパースターであるボーイフレンドと共に、全米王者を決めるスーパーボウルで勝利した直後にバイデン現大統領への支持を訴える手はずになっているとさえ噂された。

とにかく最近のメディアにスウィフトの顔と名前が出ない日はない。だが真の問題は、彼女のようなセレブの「支持」が実際に大統領選の行方を決めるかどうかだ。

 
 

セレブの支持が市場に与える影響に関する有名な研究によれば、消費者向け製品の売り上げを4%増加させる可能性があるという。アメリカでは最近のほとんどの選挙が、勝敗のカギを握る激戦州での得票率4ポイント以下の差で決着している。つまり数学的には、セレブの支持が選挙を決定的に左右する可能性があるということになる。

これには懐疑的な意見もある。アメリカでは共和党と民主党の支持者がほとんど同数であり、セレブの支持が両陣営に与える影響もほぼ同程度と考えられるので、どちらかに流れが傾くことはないというのだ。

ただし、スウィフトは今のアメリカで最大のスーパースターだが、ファン層は民主党支持者に偏っている。民主党支持の「スウィフティーズ」は、共和党支持や無党派の2倍以上。逆に共和党支持者の間でスウィフトのファンは28%にすぎない。

セレブの支持が大きな意味を持つのは、まさにそのためだ。二極化が激しいこの国で有権者の投票先を変えさせるのは困難だが、既に支持している候補者への投票を増やすことはできる。

例えば現職のブッシュ大統領にジョン・ケリー上院議員が挑んだ2004年の大統領選。ブッシュの選挙参謀は、有権者の説得より動員強化が選挙戦のカギを握ると考えた。

当時のブッシュ陣営の秘密兵器の1つは、激戦州で反同性婚の住民投票を確実に実施することだった(当時、同性婚の是非をめぐる世論はほぼ真っ二つに割れていた)。同性婚には反対だが、熱心なブッシュ支持者ではなかった有権者は、住民投票で意思表示をするために投票所に向かい、ついでにブッシュにも票を入れるというわけだ。

スウィフトとトランプの共通点

トランプ派がスウィフトを恐れるのは、同じことが起きるのを恐れているからだ。民主党の支持者はバイデンに全く熱狂していない。世論調査によれば、共和党支持層のトランプに対する熱狂度の半分程度だ。

しかし、スウィフトはファンの間で宗教的なまでの熱狂を生み出している。もしバイデン支持を明確に打ち出せば、若い層(最も投票率が低く、バイデンへの熱狂度が特に低い有権者)の投票率を押し上げ、バイデン最大の弱点(有権者のエネルギー不足)を解消してしまうかもしれない。

トランプ派の陰謀論者が、スウィフトは大統領選でバイデン優位の流れをつくろうとするCIAの道具だという噂を流すのは、それによって自分たちのエネルギーを増強しようとしているからだ。

スウィフト並みの熱狂を生み出せるセレブが味方にいないので、アンチ・スウィフトのエネルギーをあおり立て、投票率の押し上げ効果を打ち消そうとする。要するに、スウィフトはアメリカ社会の深刻な分断の反映なのだ。

彼女は多くのファンとアンチの両方を投票所に向かわせるだろう。まるでトランプのように。

プロフィール

サム・ポトリッキオ

Sam Potolicchio ジョージタウン大学教授(グローバル教育ディレクター)、ロシア国家経済・公共政策大統領アカデミー特別教授、プリンストン・レビュー誌が選ぶ「アメリカ最高の教授」の1人

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場

ビジネス

中国工業部門企業利益、1─3月は4.3%増に鈍化 

ビジネス

米地銀リパブリック・ファーストが公的管理下に、同業

ワールド

米石油・ガス掘削リグ稼働数、22年2月以来の低水準
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ」「ゲーム」「へのへのもへじ」

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    走行中なのに運転手を殴打、バスは建物に衝突...衝撃…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    ロシア黒海艦隊「最古の艦艇」がウクライナ軍による…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 9

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story