コラム

中等症は自宅療養という方針で、医療崩壊は防げるのか?

2021年08月04日(水)13時40分

中等症患者は原則、自宅療養という方針を政府は打ち出したが…… Issei Kato-RETERS

<あくまでも通常診療を守り、対応不能な民間病院にはコロナ患者を回さないという「現状維持」の判断だが......>

中程度の肺炎を発症して酸素吸入が必要な患者を自宅療養させるという案を菅内閣が提案しています(編集部注:田村厚労相は5日、「中等症は原則入院。重症化リスクが低い人が在宅療養になる」と方針を修正)。目的はただ1つ、デルタ株を中心とした新型コロナウイルスの感染拡大が悪化した場合に、コロナ病床があふれて助かる命を助けることができない、つまり俗に言う医療崩壊を防止するためです。

ですが、仮に中等症から症状が憎悪(悪化)した場合に入院が遅れたり、在宅のために必要な薬剤投与ができない事例が発生して、救命できるはずの患者が死亡するようでは、医療崩壊の防止にはなりません。

政府もそんなことは分かっているのだと思いますが、日本の世論には重大な懸念が広がっています。ここは、リスクコミュニケーションの大きな分岐点だと思います。以下、3点について丁寧な説明を行う必要があると思います。

アメリカは医学生も投入

1つ目は、病床確保の問題です。2020年の1月、中国の湖北省武漢では突貫工事でコロナ専用病院を建設していました。今から思えば、あれは感染爆発による中等症治療のためのもので合理的な判断であったことが分かります。2020年の3月から4月には、アメリカのニューヨークでは、公園にテントを張ったり、軍の病院船を回航させたり、軍の工兵部隊が突貫工事で見本市会場を病床に改造したりしていました。これもコロナ病床確保のためでした。

こうした臨時の対策を日本政府は選択しませんでした。おそらく、病院の建設基準が厳格であるなど、法律や制度の問題として不可能だったのだと思います。仮にそうであれば、厳しい規制それ自体が人命を守るためであることを説明し、国民に理解を求めるべきだと思います。

2つ目は、医療従事者の確保の問題です。アメリカの場合は、感染拡大が厳しい状況になると、あらゆる専門の医師だけでなく、医科大学院の学生、外国の医師免許保有者まで現場に投入しました。また、余裕のある州から臨時に要員を融通することもしました。この8月に入った時点でも、最悪の状態に陥ったルイジアナ州には、連邦政府から災害対策の枠組みで医師33名が急派されています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ

ビジネス

パラマウント、スカイダンスとの協議打ち切り観測 独
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前の適切な習慣」とは?

  • 4

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 5

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 6

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 9

    元ファーストレディの「知っている人」発言...メーガ…

  • 10

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story