コラム

米大統領選、共和党の立候補ラッシュは「乱立」?

2015年05月07日(木)11時27分

 2016年の大統領選に向けて共和党からの出馬表明が相次いでいます。現時点で公式に出馬表明をしているのが6人前後、さらに有力視されている候補まで入れると10人強という数を見ると「ずいぶん多い」という印象になるのは分かります。ところでこれは「乱立」、つまり候補が多すぎて党全体としては不利になるような状況なのでしょうか。

 違うと思います。

 まず、候補者はどんなに多くても、最終的には2016年夏の党大会までには一本化されるのです。それは間違いありません。また、過去に熾烈な予備選を戦ったケースは民主・共和両党ともに色々なケースがありますが、遺恨とか怨念が残るようなこともないのです。ですから、候補が多いことで内部分裂や票の分散が起きるということは基本的には考えなくていいのです。

 それにしても、今回は確かに数が多いのは事実です。また、ここへ来て俗に言う「保守系」の立候補が増えています。さすがに、ここまで増えると「予備選を勝ち抜いて党の代表候補になる」のは難しいわけで、それでも立候補するというのは、どうしてなのでしょう?

 まず、共和党全体としては「勝機あり」と見ている、それが今回の立候補ラッシュの背景にはあると思います。民主党の候補はヒラリー・クリントン氏でほぼ一本化されています。そしてヒラリーという人は、有権者の認知度は抜群ですし、現時点での世論調査では共和党の各候補を圧倒しているのは事実です。

 ですが、そのヒラリーの「勢い」にかげりが出てきているのも事実です。例えば、現在のところは、夫のビル・クリントン氏が主宰している「クリントン・イニシアティブ」の問題が話題になっています。この国際NGOは「ロシアなどを含めた外国政府からの献金」も幅広く受け取っていることから、妻のヒラリーが国務長官時代に「献金を受け取った国には外交面で配慮をしていたのでは?」という疑惑が大きく取り上げられているのです。

 この問題、そして以前あった「個人のメールアドレスを公務使用していた」疑惑など、共和党としては「ヒラリーは疑惑だらけ」というイメージが一定程度定着したと見ており、攻勢に出ているというわけです。

 では、どうして候補がゾロゾロ出てくると、党全体として「攻勢」になるのでしょう? それは簡単な理屈です。要するにニュースに取り上げられるからです。ですから、この時期には適度な間隔を置いて、1人また1人というように次々に立候補声明をしていけば、その都度話題が盛り上がるわけです。

 例えば、最も支持率が高く「本命視」されているジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事などは、まだ正式な立候補宣言はしていませんが、話題性を作るタイミングをはかっているだけで、予備選の初期に主戦場となるアイオワ州などで、既に遊説を開始しています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story