コラム

「アベノミクス」の限界はこうやって超えよう(パックン)

2022年06月18日(土)16時40分

来年4月の任期満了までに黒田総裁は経済再生のメドをつけられるか(20年1月の記者会見) Kim Kyung-Hoon-REUTERS

<岸田政権も継承したアベノミクスでは賃金上昇は見込めないし、悪いインフレも押し寄せている...ので「ビーム」の発射をおススメします>

「6月14日生まれ」と言ったら......ドナルド・トランプにチェ・ゲバラ、川端康成そして......アベノミクスだ! 当時の安倍政権が発表してから丸9年が経ち、その後2回首相が変わったが、経済政策に大きな変化はない。では誕生日を機に「アベスガキシダノミクス」の成果を見てみよう。

2013年当時に比べて、求人倍率は上がっているし、デフレ脱却はできているし、数字で見ると日本が元気になっていると感じる。だが、実質賃金は上がっていないし、目標の2%の物価上昇率もまともに達成できていない。(今年4月の消費者物価指数は確かに2%上昇しているが、同期の企業物価指数は10%も上がっている。この差は仕入れ値の上昇を企業努力で吸収し、商品の値段の急上昇を抑えているためだ。だが、その分賃金を上げる余裕がなく、不健全なインフレと思われる)。

異次元の金融緩和を9年間も続けても賃金とインフレの目標が達成できていないのは、いったいなぜなのか?

たしかに企業は元気になるが...

ここで難しい用語と複雑な理論を使うとなかなか聞いてもらえないから、シンプルに説明しよう。そのため、少し例え話をさせてください......。

株式会社パックン社が苦しんでいる! グローバル化のなか、海外企業との競争に苦戦し、主力商品の売り上げが下がっている。数年前から社員の給料も据え置きになり、工場で働くマックン達もつらい。誰か、助けて~!

そこに、日本を代表するヒーローが登場! アベノミクスマン(別称:日銀総裁)だ! アベノミクスマンは企業の強い味方。日銀から銀行へ、銀行から企業へとお金が回る特殊能力「金融緩和ビーム」(別称:黒田バズーカ)を行使し、パックン社にも低金利の融資が入るようになる。

パックン社長はそれで新しい工場を作り、最新の製造機械と制御システムも導入した。さらに、オンライン広告も出し、ホームページを作り直した。そしてイメージキャラクターに人気お笑い芸人も起用した。もちろん、それは......パペットマペットさん!

すると、広告の効果で認知度が高まったおかげでもあるが、何より、設備投資のおかげで製造コストを減らし、商品の価格設定も下げられた。それで売り上げが上がり、V字回復ができた! パックン社長も株主のみなさんも大喜び。

工場で働くマックンも大喜び。パペットマペットが大好きだから! 給料は上がらないけど......。

プロフィール

パックン(パトリック・ハーラン)

1970年11月14日生まれ。コロラド州出身。ハーバード大学を卒業したあと来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。日米コンビならではのネタで人気を博し、その後、情報番組「ジャスト」、「英語でしゃべらナイト」(NHK)で一躍有名に。「世界番付」(日本テレビ)、「未来世紀ジパング」(テレビ東京)などにレギュラー出演。教育、情報番組などに出演中。2012年から東京工業大学非常勤講師に就任し「コミュニケーションと国際関係」を教えている。その講義をまとめた『ツカむ!話術』(角川新書)のほか、著書多数。近著に『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)。

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