コラム

オリンピックの終焉──裸足の王者アベベはもういない

2021年08月07日(土)20時03分
女子マラソン

シューズが勝敗を左右する(8月7日、女子マラソン) Kim Hong-Ji-REUTERS

<オリンピックが終わる。東京大会ではなくオリンピック自体が終わろうとしている。それは、コロナのせいではない>

オリンピックが終わろうとしている。

東京オリンピックが終わるのではなく、オリンピックという存在、意義、概念そのものが終わろうとしている。

***

今日は女子マラソンが行われ、明日は男子マラソン。ほとんどの選手がカーボンプレート入りのスペシャルシューズを履いている。今朝の女子では、ほとんどの選手が同じシューズを履いているのが、テレビでもよくわかった。明日もきっとそうだろう。

カーボンプレートシューズ(通称厚底シューズ)で、マラソンなら少なくとも数分は早くなっているといわれている。だから、世界記録が出ても(真夏のオリンピックでは出ないが)、何も凄くないし、20世紀のランナーより強いかどうかはわからないし、アベベとどちらが優れた選手かはわからない。

2021年、裸足の選手などありえない。だから、アベベはもういない。

これはマラソンだけでなく、すべての競技で起きていることだ。

カーボンプレートシューズが買えない選手は勝てない。つまり、カネのない選手は勝てない。スポンサーのつかない選手は勝てない。

アマチュアリズムのオリンピックなど誰も覚えていない。スポンサーがつかなければ、高地トレーニング費用もないし、遠征もない。もちろん、コーチもトレーナーも雇えない。さらに、米国を中心にスポーツ科学が発達し、最新鋭の機器と科学で、アスリートのトレーニングを革新する。日本も遅れを取り戻すために、北区の施設に資金を大量投入し、今回のオリンピックで成果を挙げている。

しかし、カネのない国、選手は、まったくついていけない。アベベが南スーダンに生まれれば、前橋市で友達はできたかもしれないが、メダルには遠く及ばない。

メダルの数とフェアネスは逆相関

オリンピックの結果は、格差の結果である。二大大国の米国と中国がメダルはダントツで多い、日本が遅れて続き、かつての大国ロシアがその残像を残す。

フェアなスポーツマンシップとメダルは無関係どころか、逆相関だ。

オリンピックは、もっとあからさまにカネまみれだ。

しかし、これを肯定する人々もいる。それは、広告代理店が儲け、公務員でない関係者たちが権力をほしいままにすることはよくないが、それでも、各競技団体が配分にあずかり、カネを得ることができ、それで初めて選手たちの強化費用が出る、ということを根拠に、カネまみれのオリンピックは必要悪で、仕方がない、という。

そんなことはない。

前述のように、その配分に預からない国は多数ある。競技団体から配分の来ない、各国内で権力のない指導者、選手たちがいる。あからさまに不公平だ。

強化費用前提のオリンピック自体が間違っている。

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

岸田首相、「グローバルサウスと連携」 外遊の成果強

ビジネス

アングル:閑古鳥鳴く香港の商店、観光客減と本土への

ビジネス

アングル:中国減速、高級大手は内製化 岐路に立つイ

ワールド

米、原発燃料で「脱ロシア依存」 国内生産体制整備へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    こ、この顔は...コートニー・カーダシアンの息子、元…

  • 6

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 7

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 10

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story