コラム

オーストラリアの反ワクチンデモが日本に無関係ではない理由──社会に溶け込む極右の危険性

2021年10月11日(月)18時05分
豪メルボルンの反ワクチンデモ

ワクチン義務化に抗議する建築作業員たちと警官隊(2021年9月22日、メルボルン) AAP Image/James Ross via REUTERS


・オーストラリアではコロナワクチン接種の強制に反対するデモがしばしば暴徒化しており、その影には極右の扇動がある。

・しかし、それは多くのデモ参加者にとってあまり重要でないとみられ、政府への不満で共通する極右が今までより身近になったことがうかがえる。

・極右の浸透は暴動の多発そのものよりむしろ深刻であり、もともとアジア系ヘイトが目立つオーストラリアの変化は日本にとっても無関係ではない。

オーストラリアの反ワクチンデモは人種差別主義者に煽られて拡大した。ただし、極右が暴動を扇動すること以上に深刻なのは、極右が普通の市民にとって「となりにいる者」と映る、当たり前の存在になりつつあることだ。

メルボルンの騒乱

オーストラリアを代表する大都市の一つメルボルンで10月2日、ロックダウンやワクチン義務化に抗議するデモが大規模な暴動に発展し、100人以上の逮捕者を出す騒ぎになった。

オーストラリアでは8月中旬から抗議デモが各地で散発的に発生し、しばしば暴動に発展してきた。9月21日には、やはりメルボルンのデモで200人以上の逮捕者が出ている。

10月2日の抗議デモの直前、メルボルンを抱えるビクトリア州のアンドリュー知事はコロナ感染状況を理由に建築現場での作業を2週間延期することを決定した他、主に建築関係の労働者が10月15日までに最低1回受けることを義務づけた。違反すれば働けない。

これに対して、建築作業員を中心に、もともとワクチン接種に消極的だった人々の不満が爆発した格好だ。メルボルンでは、デモ参加者が'Our body, our choice(我々の身体、我々の選択)'というスローガンを叫び、ワクチン義務化に反対したが、その一部が暴徒と化し、警官隊との衝突に至ったのである。

メルボルンではコロナ感染が広がっており、10月1日時点で感染者は1488人にのぼっていた。

極右に煽られた反ワクチン

ただし、問題はワクチン接種の是非に止まらない。一連の抗議デモが極右の台頭と連動してきたからだ。

オーストラリアの複数のメディアによる共同取材は、反ロックダウンや反ワクチンを叫ぶ抗議デモをSNSで扇動してきたネオナチ「国家社会主義ネットワーク」メンバーをあぶり出した。また、メルボルンにあるアルフレッド・ディーキン研究所のジョシュ・ルース博士も多くの逮捕者を出した10月2日のデモに「自由の行進者(Freedom Marchers)」と呼ばれる極右グループが介在していたと指摘する。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:EU市民の生活水準低下、議会選で極右伸長

ワールド

アングル:ミャンマー内戦、国軍と少数民族武装勢力が

ビジネス

「クオンツの帝王」ジェームズ・シモンズ氏が死去、8

ワールド

イスラエル、米製兵器「国際法に反する状況で使用」=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加支援で供与の可能性

  • 4

    過去30年、乗客の荷物を1つも紛失したことがない奇跡…

  • 5

    「少なくとも10年の禁固刑は覚悟すべき」「大谷はカ…

  • 6

    ウクライナの水上攻撃ドローン「マグラV5」がロシア…

  • 7

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 8

    礼拝中の牧師を真正面から「銃撃」した男を逮捕...そ…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    この夏流行?新型コロナウイルスの変異ウイルス「FLi…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 3

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 7

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 8

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 9

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story