コラム

アフリカに広がるクーデター・ドミノ──危機に無策の「独裁者」の末路

2021年09月16日(木)16時50分
ママディ・ドムボヤ大佐

西アフリカ諸国首脳との会談を終えたドムボヤ大佐(2021年9月10日) Saliou Samb-REUTERS


・西アフリカのギニアでは国民に広がる生活苦を背景にクーデターが発生した。

・そのため、海外からの批判にもかかわらず、多くのギニア国民はこのクーデターを受け入れている。

・形式的な民主主義のもと国民の生活が守られない国が多いアフリカでは、ギニアのように危機を打開する手段としてクーデターに期待する状況が広がっている。

アフリカでは経済停滞や感染症の拡大、食糧危機を背景に、クーデターが各地で発生している。

「高齢の大統領は休めばいい」

西アフリカのギニアで9月5日、クーデターが発生し、アルファ・コンデ大統領が軍に拘束された。クーデターを率いたママディ・ドムボヤ大佐はかつてフランス外人部隊にも所属した歴戦の軍人だが、憲法の停止を宣言したうえで、新憲法のもとで新たな政権を発足させることを提案している。

今年2月のミャンマーのケースでそうだったように、一般的にクーデターというと「民主主義の敵」「文民統治の危機」などネガティブなトーンで語られやすい。実際、国連だけでなくアメリカなど欧米諸国はクーデターを批判しており、周辺国もギニアの「西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)」加盟資格停止といった制裁を科すなど、反対の姿勢をみせている。

おまけに、ミャンマー軍事政権を黙認する中国政府までギニアのクーデターを批判しているのが目を引く。

ところが、ギニア国内の反応はおよそ海外と正反対だ。クーデター部隊と大統領支持派の部隊との間で小さな衝突が発生したものの、大きな混乱はほとんどない。また、クーデターに反対する声もあるが、目立った抗議デモも発生していない。

むしろ、権力を握ったドムボヤ大佐は群衆の歓声に迎えられて議会議事堂に入った。ある女性はドイツメディアの取材に「とっても幸せ。...彼(大統領)は休めばいい」と皮肉を込めて語り、83歳と高齢であるコンデの退場を喜んだ。

クーデター・ドミノ

ギニアの例は特別なものではない。西アフリカでは昨年以来、ドミノ倒しのようにクーデターが相次いでいるからだ。

マリでは昨年8月、クーデターでケイタ大統領ら要人が拘束された。その後、周辺国の調停で暫定政権が発足したが、クーデターを率いたゴイタ大佐が今年6月、大統領に就任した。

さらに、近隣のニジェールでも今年3月末、大統領官邸が軍の一部に襲撃された。ただし、2期目の就任式を目前に控えていたバズム大統領は無事で、政権転覆は未遂に終わった。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ノババックス、サノフィとコロナワクチンのライセンス

ビジネス

中国高級EVのジーカー、米上場初日は約35%急騰

ワールド

トランプ氏、ヘイリー氏を副大統領候補に検討との報道

ビジネス

米石油・ガス掘削リグ稼働数、3週連続減少=ベーカー
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    地下室の排水口の中に、無数の触手を蠢かせる「謎の…

  • 5

    横から見れば裸...英歌手のメットガラ衣装に「カーテ…

  • 6

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    アメリカでなぜか人気急上昇中のメーガン妃...「ネト…

  • 9

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 5

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 6

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story