コラム

日本人がヘイト被害にあうリスク──データにみる他のアジア系との比較

2021年03月23日(火)16時10分
アジア系差別への抗議デモ

アジア系差別への抗議デモに参加して、プラカードを掲げる子供たち(写真は3月21日、ワシントンD.C.) Erin Scott-REUTERS


・アメリカでこの1年間に発生した、アジア系に対するヘイトクライムは3795件にのぼった

・被害者の40%以上が中国系で、長期滞在者を含む日系の被害は全体の約7%だったが、割合で低くとも日系もそのリスクと無縁でないことがわかる

・さらに、日系人口がアメリカで最も多いカリフォルニア州はアジア系ヘイトの最多発最地域でもある

欧米で増えるアジア系へのヘイトクライムは、現地に暮らす日本人にとって無縁でないが、そのリスクの大きさには地域差もある。

アトランタ大量殺人の衝撃

ジョージア州アトランタ郊外で3月18日に発生した銃撃事件は「アジア系に対するヘイトクライム」として世界的に注目を集めた。

もっとも、この事件をヘイトクライムと呼べるかには疑問の余地もある。確かに、アロマスパが襲撃されたこの事件では、被害者8人のうち少なくとも6人が従業員、客を問わずアジア系女性だったが、報道によると、この事件で逮捕された21歳の白人男性ロバート・アーロン・ロング容疑者は人種差別的な意図を否定している。

ヘイトクライムかどうかは、基本的に相手の属性に対する敵意の有無によって判別される。被害者の多くがアジア系だったとしても、「アジア系(あるいは有色人種)だから狙った」という加害者の動機が明確でなければ、ヘイトクライムとは呼べない。

ロング容疑者の場合、性依存症だったために「セックスワーカー(あるいは女性)へのヘイト」という見方もあるが、事件現場を管轄する保安官によると、問題のアロマスパはいわゆる風俗店ではなく、これまでトラブルなどもなかったという。

そのため、事件の遺族などからはロング容疑者の言い分を疑問視する声も上がっているが、いずれにせよFBIは現在のところ「ヘイトクライム」と断定しておらず、動機を慎重に捜査している。

どんなヘイトクライムが多いか

ただし、アトランタ大量殺人は一旦おくとしても、少なくともアメリカでアジア系へのヘイトクライムが増えているという報告は多い。

アジア系に対する暴力の調査を行なっているNGO、Stop AAPI Hate の最新報告によると、昨年3月から今年2月までの間に、アメリカ全土でアジア系に対する嫌がらせ、暴行、差別などは3795件報告されている。その内訳は、

・暴言(68.1%)

・接触の回避(20.5%)

・暴行(11.1%)

・公共交通機関でのサービス拒絶など権利の制限(8.5%)

・オンラインでの嫌がらせ(6.8%)

多数の死者を出すほど深刻で、ヘイトクライムというよりむしろテロと呼んだ方がよいものは稀としても、アジア系が標的になることは今のアメリカでは珍しくない。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story