コラム

中国に出荷されるミャンマーの花嫁──娘たちを売る少数民族の悲哀

2018年12月11日(火)14時20分

報告によると、65.6パーセントでブローカーが介在しており、ここからミャンマーと中国の間に人身取引ルートができていることがうかがえる。

これに加えて、親の指示に逆らえない文化も、女性たちを追い詰めているとみられる。JHSPHの報告書によると、回答者の14.7パーセントの場合、親が中国へ渡ることを命じており、こうしたケースでは娘の意志にかかわらず、ブローカーから親に金銭の授受があるものとみられる。

一人っ子政策の影

なぜ、中国にミャンマーから数多くの女性が「輸出」されるのか。そこには、中国が抱える一人っ子政策の影がある。

1979年から2015年まで中国で実施された一人っ子政策は、膨張する人口を抑制することが最大の目的だったが、その副作用として男性人口が女性人口を上回り続けてきた。この背景には、一人しか子どもを持てない場合、男の子が好まれる傾向が強いことがある。

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しかし、その結果、例えば20~40歳代に限っても、世界銀行の統計によると男性(約3億3286万人)は女性(約3億1235万人)より2000万人以上多く、必然的に「あぶれる」男性が生まれやすい。とりわけ、農村在住、年齢が高い、病人、障がい者といった場合はなおさらである。

ただし、親の求めや世間体もあり、子どもを求める風潮も根強くある。

こうした背景は、たとえ違法(あるいは合法か怪しいというレベル)であっても、外国から女性を連れてきてでも子どもを出産させたい需要が発生する土壌となっている。

そのため、JHSPHの報告によると、「子どもを産むのに適している」とみられる20代前半以下、場合によっては10代の若い女性が好まれる傾向があり、20歳以上離れた相手と結婚させられるケースも珍しくない。

なかには家族の一員として迎えられることもあるが、身分証を取り上げられたり、日常的にドメスティック・バイオレンスにさらされたり、あるいは子どもを産めない場合に「転売」されたりすることも珍しくない。その逆に、子どもを産めばそれ以上は必要ないために「転売」されることもあると報告されている。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

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