コラム

「買い物弱者」問題のこれから──食材宅配サービスから考える、免許返納後の暮らし

2021年09月29日(水)20時40分

では、高齢者は宅配やインターネットを通じた注文についてどう感じているのだろうか。他の世代との違いや特徴にはどんなものがあるだろうか。

インターネットで注文して配達してもらうサービスと実店舗で購入することへの意識について、日用品流通の情報基盤を運営するプラネットが、自社のモニターを対象に全世代の男女で調査(2018年9月実施)を実施している。

男女を通して利用しない理由は「実際に自分で商品を選びたい」が最多の38.7%、次いで「送料が高い」が38.4%。「実際に自分で商品を選びたい」に回答したのは女性で43.6%、男性の36.9%を大きく上回った。この結果、男性よりも女性の方が実際に商品を手に取って確かめたい傾向が強く、商品選びに対するこだわりが強いことが分かる。

「実際に自分で商品を選びたい」は年代が高くなるほど傾向が強く、「送料が高い」は逆に年齢層が低いほど高くなる。ネットショッピングになじんでいる若年層ほど、実物を見ないまま購入することに対する抵抗は少なくなるが、送料の出費の方が痛手となっていることが分かる。その他、60代・70代の女性にとって、タイムセールや見切り品の割引サービスが受けられることも重要な要因のようだ。

年齢が高くなるほど現物主義だとよく耳にするが、性別による傾向の違いも考慮する必要がありそうだ。

高齢者に愛されるコープの宅配を筆者も利用してみた

スーパーでの買い物を好む60代以上だが、高齢者層にも親しまれている宅配サービスがある。生活協同組合(通称:生協、コープ)だ。

生協の歴史は19世紀のイギリスにさかのぼり、弱い立場に立たされていた労働者たちが相互扶助によって自らの生活を守ろうとして始まった。日本では1921年に現在のコープこうべの前身が設立され、今日では各都道府県に数多く設立されていている(地域生協の他に大学生協、職域生協もある)。

コロナ禍の現在、筆者は独居の高齢女性に近い環境、感覚で暮らしているのではないかと思うことがある。

一人暮らしでクルマを保有していない。自分で店に行って旬の食材を買って、献立を考えるのが好きだ。また在宅時間が増え、PC画面上で人と会っても、対面で人と会うことがなく、寂しさを感じる時もある。また、緊急事態宣言によってますます自宅で過ごすことが増え、献立がマンネリ化し、栄養の偏りを感じていた。

そこでさまざまな宅配サービスを使ってみた。ところが、なかなか自分に合ったものを探し出せなかった。行き着いたのが、実家で以前から活用していて、祖母がクルマの免許返納を契機に利用を始めた生協だった。その中の献立と食材を宅配してくれる「3日分の時短ごはんセット」というサービスが長続きしている。

プロフィール

楠田悦子

モビリティジャーナリスト。自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。心豊かな暮らしと社会のための、移動手段・サービスの高度化・多様化とその環境について考える活動を行っている。共著『最新 図解で早わかり MaaSがまるごとわかる本』(ソーテック社)、編著『「移動貧困社会」からの脱却 −免許返納問題で生まれる新たなモビリティ・マーケット』(時事通信社)、単著に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意

ワールド

国際刑事裁の決定、イスラエルの行動に影響せず=ネタ

ワールド

ロシア中銀、金利16%に据え置き インフレ率は年内
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story