コラム

「ロシア支援者」のそしりを受けるか、中国に権益を手渡すか...日本の苦しい二択

2022年04月20日(水)10時46分
サハリン2

AP/AFLO

<これまで通り「サハリン2」の権益を持ち続けると国際社会から非難される恐れがあるが、撤退すればその権益が中国に渡る可能性は大いにある>

日本企業が多く参加するロシアの原油・液化天然ガス(LNG)事業「サハリン2」が、欧米によるロシア制裁の強化で岐路に立たされている。サハリン2は、日本が持つ数少ない天然ガスの権益だが、日本だけが対ロ制裁に協力せず、ロシアから有利な条件で天然ガスの供給を受け続けた場合、国際社会から批判される可能性もある。

サハリン2は、ロシア国営ガス会社であるガスプロム、英石油大手シェル、三井物産、三菱商事が出資する原油・天然ガス事業で、1999年から生産を開始している。原油の生産能力は日量15万バレル、天然ガスの生産量は年間960万トンとなっており、日本における天然ガス輸入の約9%がサハリン2からである。日本の輸入額全体に占める割合はそれほど高くないものの、日本企業が権益を持っていることもあり、長期契約で調達価格が割安になっている。

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、西側各国はロシアに対する経済制裁を行っているが、ロシアにとって最も重要な原油と天然ガスの禁輸には踏み込んでおらず、制裁が不十分との声が日増しに高まっている。こうした批判の声を受けてドイツは、ロシアからの原油輸入を今年半ばまでに半減させる方針を明らかにするなど、徐々に根幹部分であるエネルギー分野に制裁を拡大する動きが顕著となっている。

ロシアの強力な支援者と見なされかねない

これまでの国際社会では、欧州がロシアの原油や天然ガスに依存していることの是非に議論が集中しており、日本の存在はあまり認識されていなかった。だが、日本は輸入依存度こそ低いものの、ロシアと共同で原油・天然ガス事業を展開しており、場合によってはロシアに対する強力な支援者と見なされかねない状況であることが、徐々に知られるようになってきた。

既にシェルはサハリン2から撤退しているし、国際社会と協調してロシアを封じ込めるとの立場で考えれば、撤退も選択肢の1つということになるだろう。

だが現実はそう単純ではない。サハリン2からの天然ガスは輸入量全体の10%以下だが、地域のガス会社によっては約半分がロシア産というところもある。価格が安いロシア産の天然ガスの利用をストップし、他の天然ガスに切り替えた場合、確実に調達コストが上昇するため、電気代やガス代がさらに値上がりする可能性がある。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直

ワールド

ロシア産肥料を米企業が積極購入、戦費調達に貢献と米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story