コラム

「友人を失う」という悪癖が首相辞任ジョンソンの本質

2022年07月21日(木)14時50分
ボリス・ジョンソン

ジョンソン英首相は近しい人々から次々見放された VIOLETA SANTOS MOURA-REUTERS

<近しい同僚たちがこぞって反旗を翻し、辞任に追い込まれたジョンソン英首相。エネルギッシュで一見、人を引き付ける力にあふれているようだが、親しくなるほどに人が離れていく傾向がある>

若者にも伝えたい僕の人生最大の教訓の1つは、長年の友人に恵まれていなそうな人は警戒すべき、というものだ。僕自身は19歳頃にこれを悟った。実のところ僕は、疑いの目を向け始めたある身近な人物について他の友人と話し合ううちに、だんだんとこの洞察を導き出していった。

なぜ彼は高校時代からの友達が1人もいないのだろうと、僕と友人はいぶかしんだ。なぜ彼は半年前に知り合ったばかりの人々を「親友」と吹聴するのか。なぜ彼が「いい友達」と話す人々は彼の周囲からすぐに離れていくのか。

人々が時とともに彼の本質を見抜くか、あるいは彼が長年の友情を大事にしないのか、またはその両方なのだろうと、僕たちは結論付けた。いずれにしろ、僕たちはこれを性格的欠陥とみて彼を警戒するようになった。

何年かたって、信用できないタイプの人は、新しい友人を作るのがとてもうまいがそれを長続きさせられないという説を読んで、さらに教訓が加わった。こういうタイプはある意味、性格的な「深み」のなさが表面的な愛想のよさで埋め合わされているのだ。

今そんな話をするのは、ボリス・ジョンソン英首相ゆえ。総選挙での大勝利からたった2年半でのジョンソンの辞任表明は、驚くべきものに見えるかもしれない。2019年、彼の人気は高く、保守党に多くの新たな有権者の票を呼び込んだ。彼は歴史的な好機を手にし、自らそれをぶち壊した。

だが他の見方をすれば、そう驚くことでもない。パターンどおりだからだ。ジョンソンには目に見える熱意があり、それは最初のうちは人々を引きつけるが、しばらくたつと軋轢を生みがちだ。「軽薄さ」に代わってしまうのだ。

いたずらっ子的なキャラクターだからと言って、「あれ、申し訳ない、へまをしちゃった......」で済まされるというのはそう何度も通用しない。ジョンソンはロックダウン中の規制を破った首相官邸でのパーティーでも、否定したりごまかしたりしてこの手法を使い倒した。

退陣を誰より喜ぶのはプーチン

ジョンソンには友人を失うという実に悪い癖がある(妻やガールフレンドもだ)。彼に背を向けたほんの数人を例に挙げると、マイケル・ゴーブ元司法相(ブレグジット推進の盟友)、ドミニク・カミングス(元上級顧問)、オスウィン・マレー(古典学者でオックスフォード大学時代の恩師)、ペトロネラ・ワイアット(ジャーナリストで元愛人)、マックス・ヘイスティングス(ジャーナリスト時代の上司)、リシ・スナーク前財務相とサジド・ジャビド前保健相(どちらもジョンソンに指名されて閣僚就任)......。

彼らはかつての友情を尊重して威厳ある沈黙を守ろう、という気すらないらしい。ジョンソンがいかにひどいかを語ることに義務を感じているかのようだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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