コラム

コロナ禍の中で始まった欧州サッカー選手権、コロナ対策はオリンピックとどう違う?

2021年06月15日(火)13時34分

「私たちは、すべてが制限されている非常に厳しいバブルの中にいます」。5月26日、フランスチームのディディエ・デシャン監督は言った。「我々には外界との関係において、自由が全然ありません」。

バブルとは元々「泡」という意味だが、本当に「バブルサッカー」なるものが存在するのだ。2011年にノルウェーのテレビ番組で始まり、YouTubeで拡散されたことで一躍広がったと言われている。

bubblesoccer.png
Man City/YouTube

もちろん、実際にはプロのサッカー選手は、このようなものはつけない。コロナ禍で、安全のために選手を隔離するイメージから来たのだろう、最近では「選手はバブルの中にいる」といった表現が、頻繁に使われるようになっている。

選手やスタッフは、定期的にコロナテストを受けなければならない。そして、外部との接触はほとんどない。

「決して快適なものではありません。でも、選択肢はありません」と、フランスチームのコーチは語る。一人でも感染者が出たら、チーム全体が大変なことになるからだ。

「これは、選手にとっても、我々スタッフにとっても、余計なプレッシャーであり、ダモクレスの剣です(注:栄華や豊かさの中に、危険が迫っているという意味)。ウィルスには極限の注意を払わなければならず、そのためにバブルを作り、入口と出口を警戒するのです」

「他にどうしようもないのです。私たちは自分の中に閉じこもり、外に連絡も取りません。素晴らしい仕事をしていても、心理的には簡単ではないこともあります」と説明している。

周りの一般人は浮かれて一時的なお祭り騒ぎをしていても、選手は前例のないストレスと孤独、そして厳しい管理のなかに置かれるのだ。これはオリンピックが行われるのなら、まったく同じになるだろう。

国の差や個人差、今置かれている環境差が出てくるだろうに、そういう超異常な状況と条件のもとでスポーツの能力を競うことに、どこまでの意味があるのだろうか。そこで出される結果は、本当にスポーツの能力なのだろうか。オリンピックの意義は何だったっけと考えこんでしまう。

オリンピックをするなとは言わない。でも、なぜたった1年の延期だったのか。最低でも2年間はとるべきだったのではないか。昨年の春、患者数が激増し、非常事態宣言が出されようと緊張が増していたあの状況で、たった1年間の延期を決めたのは誰だ。安倍前首相一人のみの責任とは思えない。伝染病の危機なのに、なぜたった1年だったのか。

どうやって誰が、どういう勢力が主導権を握って決めたのか、責任の所在を追求してほしい......と日本のメディアに望んでも、無理なのだろうか。


※当記事はYahoo!ニュース 個人からの転載です。

※筆者の記事はこちら

プロフィール

今井佐緒里

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出合い、EUが変えゆく世界、平等と自由。社会・文化・国際関係等を中心に執筆。ソルボンヌ大学(Paris 3)大学院国際関係・ヨーロッパ研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。編著に「ニッポンの評判 世界17カ国最新レポート」(新潮社)、欧州の章編著に「世界が感嘆する日本人~海外メディアが報じた大震災後のニッポン」「世界で広がる脱原発」(宝島社)、連載「マリアンヌ時評」(フランス・ニュースダイジェスト)等。フランス政府組織で通訳。早稲田大学哲学科卒。出版社の編集者出身。 仏英語翻訳。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ハリコフ攻撃、緩衝地帯の設定が目的 制圧計画せずと

ワールド

中国デジタル人民元、香港の商店でも使用可能に

ワールド

香港GDP、第1四半期は2.7%増 観光やイベント

ワールド

西側諸国、イスラエルに書簡 ガザでの国際法順守求め
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story