コラム

中東専門家が見た東京五輪、イスラエルvsイスラーム諸国

2021年08月16日(月)11時25分

もちろん、イスラエル人との対戦(あまつさえ負けたこと)、ヒジャーブを着用しなかったこと、そもそも公的な場に後見人の同伴なしで女性が登場することは許されないなどカフターニーに対する批判はあるものの、シャフルハーニーのときのような露骨な差別的言辞は少なかったと思う。

なお、SNS上には彼女がいったとされる「私が代表しているのは自国であって、パレスチナではない。私はスポーツ選手であり、政治家ではない」の語が流れているが、実際、彼女がこういったかどうかは確認できなかった。

格闘技でいうと、今大会の女子空手組手61キログラム超級でエジプトのフェルヤール・アシュラフが金メダルを獲得したことも大きい。これは、エジプト人女性としてオリンピックでのはじめての金メダルでもあった。

エジプトのような、アラブ諸国では比較的女性の社会進出が進んでいる国ですら、これまでオリンピックで女性の金メダリストがいなかったというのは驚きであろう。なお、エジプトは今回6個のメダルを獲得したが、そのうちの半分、3個は実はアシュラフを含む女性が獲得したものであり、しかもこの女性の3個は空手(金・銅)、テコンドー(銅)と、すべて格闘技であった。中東では男性同様、女性も格闘技好きなのであろうか。

アシュラフの試合はリアルタイムで見ていないのだが、YouTubeで見た彼女のエジプトの実家での家族の応援ぶりがすごかった。とくに母親と父親。もともと、エジプト人は感情表現が豊かで、声が大きいだけでなく、身振り手振りも派手なのだが、それでも、この喜びかたは尋常ではない。

あまりにすごかったためだろうか、その後、いくつかのエジプト・メディアが両親(とくに母親)をフィーチャーしていたのも興味深かった。

凱旋帰国のときは空港でパレード用の展望台つきバスに移動するまでもみくちゃになっており(もちろん母親も)、しかも多くの人がマスクをせずに大声で叫んでおり、金メダル・クラスターが発生するのではとヒヤヒヤしている。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授等を経て、現職。早稲田大学客員教授を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG

ワールド

米上院議員、イスラエルの国際法順守「疑問」

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story