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全米/全英チャート初登場1位、でも......大人になれないテイラーを新アルバムから分析

A Worthy Successor to “Red”

2019年10月02日(水)18時55分
カール・ウィルソン

母の闘病を歌った曲も

「クルーエル・サマー」「フォールス・ゴッド」や「アフターグロウ」では自分の手で愛を壊してしまう危険を歌った。けんかや涙の電話、仲直りのセックスと映画のように鮮やかに恋の物語を紡いでみせるのはスウィ フトの真骨頂。彼女はそこで、潔く「ごめんなさい」と謝れる大人になろうと努力する。

こうしたラブソングの白眉が「コーネリア・ストリート」。アルウィンとニューヨークのグリニッチビレッジで暮らし始めた日々を振り返っただけあって、「開いた窓から秋の風/私の肩にはあなたのジャケット」と楽しそうだ。

だが彼女は恋人の真意を疑い、愛の巣から飛び出してしまう。そこへ彼から電話が入り......と、ラブコメディーを絵に描いたような展開だが、何年たっても行き違いから彼を失うのが怖いとスウィフトは歌う。プロデューサーのジャック・アントノフは揺らめくシンセサウンドで心の乱れを表現しつつ、全体をクールなピアノで引き締めた。

ストレートに「ラヴァー(恋人)」と名付けたタイトル曲では、アコースティックギターとパーカッションがワルツを奏でる。これほど伸びやかなスウィフトは近年珍しい。この曲が説得力を持ち、聞く者を和ませる のはスウィフトが自分の音楽に自信を持っているからだ。

【参考記事】『アリー/スター誕生』は「映画って最高」と思わせる傑作

「スーン・ユール・ゲット・ベター」は異色の1曲。母アンドリアの癌の再発を扱ったため、収録すべきか否か家族会議で話し合ったという。母の闘病を思えばほかの悩みなど小さいものだと、スウィフトは語っている。

女性カントリーバンド、ディクシー・チックスのバンジョーとフィドル、コーラスをバックに「聖なるオレンジ色の薬瓶」に祈り、信じてもいないキリストにすがる。この率直でリアルな歌詞こそが、カントリーの聖地ナッシュビルで受けた薫陶のたまもの。同じ苦しみを味わった人は、涙なくして聞けない。

スウィフトの音楽は時間とともに耳になじんでいく。『レピュテーション』の評価が上がり始めたのも、発売から1年ほどたってからだ。だが『ラヴァー』は最初から短所よりも長所が際立つ。スウィフトはアントノフらプロデューサー陣を束ね、前回のように無様に流行の音を追い掛けないよう手綱を締めた。

それでも不満は残る。スウィフトはソングライターとしての成長に及び腰のようだ。ウェストやケイティ・ぺリー、昔の恋人たちとの確執が足かせになっているのか、コアなファンの反応を気にし過ぎているのか。

『ラヴァー』は『レッド』に比べて、感情表現も曲作りも洗練されている。だが芸術的に進化したかと言えば、そうでもない。

必要なのは壁を打ち破るきっかけだろう。30代を迎えた彼女が、突破口を見つけたら? 想像もできないほど素晴らしい音楽が生まれるに違いない。


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[2019年9月17日号掲載]

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