コラム

台頭する中国に対抗する「強いアメリカ」、バイデンのインフラ投資で実現できるか

2021年04月22日(木)11時58分
道路工事(アメリカ)

MIKE BLAKEーREUTERS

<バイデン政権の巨額インフラ投資計画は、「21世紀版ニューディール政策」ともいうべき重要な意味を持つ>

アメリカが巨額の財政出動に邁進している。バイデン政権は2021年3月31 日、8年間で2兆ドル(約220兆円)という巨額のインフラ投資計画を明らかにした。

老朽化した道路や鉄道などの交通網整備に約6000億ドル、電力や通信インフラに約1000億ドル、半導体や人工知能(AI)などの研究開発に約1800億ドルを投じる。交通網の整備には電気自動車(EV)の普及を狙った50万カ所の充電設備建設費用(1800億ドル)が含まれている。

バイデン政権は、国民1人当たり最大1400ドルの給付金を含む1.9兆ドルのコロナ対策法を成立させたばかりだ。今回のインフラ計画が議会で承認された場合には、総額で約3.9兆ドルという前代未聞の財政出動が実現する。

バイデン政権はこの巨額支出を法人増税で賄う方針を明らかにしており、15年間で2.5兆ドルの税収増を見込む。現状21%の連邦法人税率を28%に引き上げるとともに、多国籍企業の海外収益に対して21%の課税を実施したい意向である。

増税でも成長は阻害されない

一部からは増税による景気の冷え込みを懸念する声が出ているが、当面、その心配はないだろう。今回のインフラ投資を1年当たりの金額に換算すると年間2500億ドルとなるものの、これは設備投資なので、ほぼ全額がGDP増加に寄与する。しかも、通信インフラ整備、研究開発投資、EV対応といった支出は今後の成長を拡大させる原動力となり得る。

これに対して1年当たりの増税の影響は1667億ドルであり、少なくとも財政出動が行われる8年間は財政出動の効果が上回る。

アメリカはトランプ政権になって大規模な法人減税を行ったが、もともとは法人税率が極めて高い国の1つであり、税金への耐性は高い。最終的な成長率はイノベーションで決まるので、持続的に経済が拡大している状況であれば、増税が経済成長を阻害することはない。

しかしながら、バイデン政権はコロナ対策などで既に大規模な国債増発に踏み切っており、アメリカの政府債務は増大しつつある。長期金利は既に1.7%に迫る状況で、政府債務増大は金利をさらに上昇させる要因となる。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

北朝鮮が短距離ミサイルを発射、日本のEEZ内への飛

ビジネス

株式・債券ファンド、いずれも約120億ドル流入=B

ワールド

中国、総合的な不動産対策発表 地方政府が住宅購入

ビジネス

アングル:米ダウ一時4万ドル台、3万ドルから3年半
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story