コラム

なぜ経済危機のたびに、日本だけ回復が遅れるのか

2021年02月11日(木)12時08分

TORU HANAIーREUTERS

<今年のGDP成長率予測で、日本が他の主要国に後れを取っている実態が浮き彫りに。コロナ感染は少ないのになぜ?>

新型コロナ危機後の世界経済において、日本の出遅れが顕著となっている。日本は諸外国と比較して感染者数が少なく推移していることに加え、GoToキャペーンなど大々的な景気刺激策まで実施して経済を回そうと試みてきた。それなのに、なぜ日本だけ景気低迷が深刻なのだろうか。

IMF(国際通貨基金)が今年1月26日に発表した世界経済見通しによると、2021年における全世界のGDP成長率は、物価の影響を考慮した実質値でプラス5.5%となっている。新型コロナウイルスに対応するワクチンが開発されたことで感染の克服が進むと予想されるため、前回(20年10月)の見通しから0.3ポイント上方修正された。ポストコロナ社会に向けて期待が持てる内容だが、国別の予想を見ると少し状況が変わってくる。

アメリカはプラス5.1%、欧州(ユーロ圏)はプラス4.2%、イギリスはプラス4.5%、中国はプラス8.1%となっているが、日本はプラス3.1%でしかない。しかも20年の落ち込みはマイナス5.1%となっており、厳しいロックダウンを行った欧州(マイナス7.2%)よりは多少、緩和されているが、アメリカ(マイナス3.4%)よりはかなり悪い。

日本は欧州とは異なりコロナに対して厳しい措置は実施しなかった。国内ではロックダウンをめぐって激しい議論となったが、日本が厳しい措置を採用しなかったのは、全ては経済のためであり、その後も、リスクの高いGoToキャンペーンまで行って景気を刺激してきた。

なぜ日本だけ回復が遅いのか

それにもかかわらず、感染がはるかに深刻な欧米と比較して、日本のほうが経済への打撃が大きくなっている。実は同じような現象はリーマン・ショック当時にも観察されている。リーマン・ショックは各国経済に大きな打撃を与えたが、その後の5年間の平均成長率は主要国の多くが2%台だったが、日本は約1.5%にとどまった。

日本だけが経済危機に弱く、回復も遅いという図式だが、これには日本経済の構造的問題が関係している。日本企業は90年代から本格化したビジネスのIT化に背を向け、従来の事業モデルに固執してきた。これに伴って、ただでさえ先進国最下位だった日本の労働生産性はさらに下がり、経済全体として全く余裕がない状況が続いている。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story