コラム

飲食店の倒産増加は、日本経済にとって本当に「悪いニュース」か

2020年02月05日(水)12時09分

ウーバーイーツなど新サービスによる消費行動の変化も一因 petekarici/ISTOCKPHOTO

<飲食店の倒産増加は日本経済の現状を反映しているが、その意味合いについては冷静に分析する必要がある>

このところ飲食店の倒産が増えている。政府は倒産を抑制する政策を続けてきたが、2019年4月にその制度も完全終了した。飲食店の倒産増加は何を意味しているのだろうか。

帝国データバンクによると、19年1~11月の飲食店倒産件数は668件で、過去最多だった17年を上回る勢いとなっている。なかでも「酒場・ビヤホール」は11年連続で最多、「西洋料理店」は3年連続で件数が急増している。

近年、ウーバーイーツなどネットを使ったデリバリーサービスが急拡大しており、飲食店に出向く人の数が減ってきた。昨年末には「忘年会スルー」が流行語になったことからも分かるように、会社の飲み会を敬遠するビジネスパーソンが増えており、アルコールを出す店は苦戦を強いられている。

しかしながら、飲食店への支出が減った最大の理由は、労働者の賃金が大幅に下がったことである。これまで労働者の名目賃金はわずかに上昇していたものの、物価上昇率がそれを上回っており、実質賃金がマイナスになるという状況だった。

しかし19年に入ってからは実質賃金だけでなく名目賃金もマイナスになる月が目立っており、給料の絶対値が下がっている。米中貿易戦争の影響で企業業績が悪化していることに加え、早期退職による転職の増加や、一定の年齢に達した段階で高い役職に就いていない社員を管理職から外す役職定年の強化などが影響した可能性が高い。

賃金が下がれば高額支出を控えるのは当然で、単価が高めの西洋料理店が真っ先に影響を受けたと解釈できる。零細な飲食店の場合、消費増税に伴うシステム改修費用が捻出できなかったり、アルバイトの人件費が高騰しているといった理由から自主廃業するケースも増えているという。

飲食店の倒産増加は、こうした日本経済の現状をそのまま反映した形だが、ネットの普及による消費行動の変化や労働者の賃金低下、人件費の高騰といった問題は飲食業界に限った話ではない。景気に敏感な飲食業界で倒産が増えているということは、この動きが他に波及する可能性が高いことを示唆している。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story