コラム

SNS上の顔写真を100億枚以上学習したAIの顔認識アプリが物議

2021年10月21日(木)17時31分

プライバシーの侵害で人権団体が訴訟を起こし、フェイスブックやツイッターは顔写真の無断利用を中止させようとしているが metamorworks-iStock.

<他人の写真を勝手に100億枚以上も学習した顔認識アプリが世界中の捜査機関や企業に使われ始めた。米AIベンチャーのクリアビューの製品だが、もはや一社を規制するだけでは解決にならない>

*エクサウィザーズ AI新聞から転載

米AIベンチャーのClearview社は、顔認証AIの学習用に使ったネット上の写真が100億枚を超えたことを明らかにした。一方で同社の顔認証サービスが、世界中の政府や捜査機関に使われていることが明らかになっており、プライバシー保護の観点から顔認証AIが米国で社会問題化している。日本国内で同社のサービスが利用されているかどうかは明らかではないが、同社のサービスを使って日本人の身元特定が可能なことはほぼ間違いなさそうだ。

同社のCEOのHorn Ton-That氏は、米誌Wiredのインタビューに対してAIの学習用データとしてネット上から勝手に収集した写真の枚数が100億枚に達したことを明らかにした。同社はクローラーと呼ばれる自動循環ソフトを使ってFacebookやTwitter、InstagramなどのSNSにアップされた写真を収集して顔認証AIを訓練。AIは学習用データが多ければ多いほど賢くなるので、同社の顔認証AIはかなりの精度を達成したものと考えられる。

マスク着用の写真でもわかるAIを開発中

このため世界中の捜査機関や企業などが同社のサービスを利用しているもようで、米ニュースサイトBuzzFeedによると、世界27カ国の2200以上の捜査機関、企業、個人が同社と契約しているという。政府機関では、米移民局、法務省、FBI、INTERPOL(国際刑事警察機構)、小売チェーンではデパート大手のMacy's、家電量販店チェーンのBest Buyなどの名前がリストに載っているという。

ClearView社では、同社の顧客は北米の捜査機関が中心だと主張しているが、BuzzFeedによると、実際にはヨーロッパ、アジア、中東の法律、金融、小売などの業界にも顧客層を拡大しているという。

日本の政府機関や企業が同社のサービスを利用しているのかどうかは不明だが、顔写真のデータベースから日本人だけが排除されているとは考えづらいので、日本人ユーザーがSNSにアップした写真も学習用データとして使われていることは間違いないだろう。ということは日本人も顔写真から身元が特定できるということだ。

同社はまた解像度の低い写真の解像度を上げるAIや、マスクをつけている顔写真からでも人物を特定できるAIを現在開発中だとしている。

同社の技術が事件の捜査に有効であることは間違いなく、あるカナダの捜査官は匿名を条件に米大衆紙DailyBeastの取材に対し「過去10年で最も画期的な捜査技術」と絶賛している。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB、急激で大幅な利下げの必要ない=オーストリア

ビジネス

ECB、年内利下げ可能 政策決定方法は再考すべき=

ビジネス

訂正(7日配信記事)-英アストラゼネカが新型コロナ

ワールド

EXCLUSIVE-チャットGPTなどAIモデルで
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:岸田のホンネ
特集:岸田のホンネ
2024年5月14日号(5/ 8発売)

金正恩会談、台湾有事、円安・インフレの出口......岸田首相がニューズウィーク単独取材で語った「次の日本」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    「自然は残酷だ...」動物園でクマがカモの親子を捕食...止めようと叫ぶ子どもたち

  • 3

    習近平が5年ぶり欧州訪問も「地政学的な緊張」は増すばかり

  • 4

    いま買うべきは日本株か、アメリカ株か? 4つの「グ…

  • 5

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 6

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 7

    迫り来る「巨大竜巻」から逃げる家族が奇跡的に救出…

  • 8

    イギリスの不法入国者「ルワンダ強制移送計画」に非…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ケイティ・ペリーの「尻がまる見え」ドレスに批判殺…

  • 1

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 2

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 3

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 4

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 5

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 6

    外国人労働者がいないと経済が回らないのだが......…

  • 7

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 8

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 9

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

  • 9

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 10

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story