コラム

倫理をAIで科学する エクサウィザーズ社長石山洸

2018年03月16日(金)19時30分

バイオ、サイコ、ソーシャルの境を超えて

──なるほど。バイオ、サイコ、ソーシャルをデータ化できるのであれば、機械学習を使えば3つの領域の相関性が分かりますね。

石山 そうなんです。またTMSの刺激でなく、マインドフルネスだったら、どのようなデータが取れるのか。或いは、弊社でも推進している認知症ケアの手法「ユマニチュード(R)」を活用したらどうなのか。TMS以外の介入方法が、協調を生むかどうかを定量的に評価していくことが可能になります。つまり、バイオ・サイコ・ソーシャルなデータをどんどん取得して、機械学習を用いて協調や裏切りについて科学することができるわけです。

当然、磁気刺激で協調関係が向上するというと怖い感じがしますが、瞑想や身体性を伴うコミュニケーションで同じような効果が得られるなら受け入れやすいかも、というような導入面での倫理的な観点についても検証していくことができます。

──バイオ、サイコ、ソーシャルの領域をAIで解明するのって、おもしろい話ですね。今までは、生物学の研究は生物学の領域だけで、心理学は心理学の領域だけで、社会学は社会学の領域だけで研究されていたものが、学問の境界線を超えることができるわけですね。

石山 その通りです。バイオに刺激を与えてサイコ、ソーシャルがどう変化するかという方向だけではなく、逆も可能です。サイコの変化がバイオ、ソーシャルのデータにどう変化を与えたか、ソーシャルの変化がバイオ、サイコをどう変化させるのか、など、いろいろ解明できます。

──サイコの変化がバイオにどう影響を与えたかって、どう測れるのですか?

石山 唾液内のオキシトシンを測定するなど、いろいろな数値を取れます。サイコやソーシャルの数値はアンケートでも取れるでしょうし、別の方法でもいくらでも取れると思います。

──データが取れれば機械学習でいろいろなことができそうですね。サイコ、バイオ、ソーシャルのデータのうちの1つが欠如していても、別のデータから数値を予測できますからね。

石山 もちろんそうしたことも可能ですし、囚人のジレンマ以外でも他の社会的規範や倫理的な問題についても解析できるようになると思います。また囚人やプレーヤーの数を二人からn人に拡張していけば、より広範囲での社会課題を取り扱えるようになっていくわけです。つまり、どういう介入で、どういう倫理的効果が生まれるのかをデータ・ドリブンで解明できるんです。

人工知能が解明する日本の倫理観

──倫理観の研究って文化によって内容が異なってきそうですね。東洋は東洋の倫理観の形成プロセスがあったでしょうし、キリスト教やイスラム教などの文化圏でもそれぞれ独特の形成プロセスがあると思います。そういう意味で、日本は東洋的な倫理観の研究に着手すれば、世界的に見てもおもしろいものができそうですね。

石山 そうですね。日本人の倫理観に深い影響を与えているもの一つに儒教がありますが、儒教の教えの中には、バイオ、サイコ、ソーシャルの関連性について説いているものがあります。例えば儒教における「仁」という概念は、孔子がその中心にすえた倫理規定。漢字では「ニンベン」に「2」と書くくらいで、人と人との間のあるべき人間関係を規定しており、英語では「Goodness」と翻訳されます。一方で、この抽象的な仁という概念を具体的に実現する方法が、行動様式としての「礼 = Ritual」で、いわゆるマナーのようなものです。この「仁」と「礼」というものの関係については、古くから強調きたわけです。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか

ワールド

北朝鮮の金総書記、核戦力増強を指示 戦術誘導弾の実

ビジネス

アングル:中国の住宅買い換えキャンペーン、中古物件
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    中国のホテルで「麻酔」を打たれ、体を「ギプスで固…

  • 9

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story