コラム

フランス大統領選挙―ルペンとマクロンの対決の構図を読み解く

2017年04月29日(土)14時00分

REUTERS/Charles Platiau

4月23日に行われたフランス大統領選挙第1回投票で、マクロンとルペンがそれぞれ1位(得票率23.86%)、2位(同21.43%)を占め、5月7日の決戦投票に駒を進めることとなった。このことが何を意味するのか、両者の対決の構図を読み解いてみたい。

ルペンの勝因は、既に多くの識者やメディアが取り上げているとおりだ。国民の間に広がってきた反移民感情と治安悪化への懸念を背景とした徹底した移民規制と治安対策、フランス優先と反EU、フランス国民保護などの主張が功を奏し、反エリート・反グローバル感情の高まりと近年の国民戦線(FN)のソフト化(脱悪魔化)路線の成功とが相まって、国民の5分の1強の支持と期待を集めたのだ。

一方のマクロンの勝因としては、右でも左でもないという新しい中道路線の成功を挙げることができる。基本的には左派の価値観をもち、オランド社会党政権で閣僚を務めた若いエリートが、既成政党の枠組みから離れて新しい政治運動を立ち上げたことにより、政治に新風を吹き込んだだけでなく、ルペンの反知性主義的扇動に真っ向から立ち向かう進歩的改革者として立ち上がったことが、中道左派を中心に国民の4分の1弱の支持と期待を集めたのだ。

この両者に共通するのは、既成政治の否定だ。国民も、長年続いてきた右派と左派の政権たらい回しに嫌気がさし、既成政党である社会党(PS)と共和派(LR)にレッドカードを突き付けた。社会党のアモン候補は、6.35%という歴史的惨敗を喫した。共和派のフィヨン候補も19.94%しかとれず、右派政党として初めて第1回投票で姿を消すという屈辱を味わった。

こうして左右の2大政党が退場したことで、既成政党の枠外の中道左派と極右との対決になったと見ることも可能だが、マクロンとルペンの対決の構図はそれほど単純ではない。両者の間には、左右対立の構図だけでは捉えられないもう一つの大きな違いがある。それは、対立軸の取り方による。

左右の対立軸

左右の対立軸を、社会的・文化的な価値観の面に限って見てみると、進歩的でリベラルな人々が左派に属するのに対し、保守的でフランス固有の価値観を重んじる人々が右派に属する。左派は平等と普遍的人権を重視することから格差是正や弱者保護に取り組み、多文化主義を擁護する。一方の右派は、伝統や秩序を重んじ、国粋主義的な傾向を示す。移民問題については、右派が厳しい姿勢であるのに対し、左派は融和的だ。

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この左右の対立軸で見たときに、最低賃金の引き上げなど格差是正を訴えたメランション候補とアモン候補の左派性は明らかだ。一方、逆に富裕税の廃止を訴え、移民や治安の問題に厳しく対処する姿勢を示したフィヨン候補の右派性も明らかだ。ただ、これらの候補は第1回投票で姿を消してしまった。

プロフィール

山田文比古

名古屋外国語大学教授。専門は、フランス政治外交論、現代外交論。30年近くに及ぶ外務省勤務を経て、2008年より東京外国語大学教授、2019年より現職。外務省では長くフランスとヨーロッパを担当(欧州局西欧第一課長、在フランス大使館公使など)。主著に、『フランスの外交力』(集英社新書、2005年)、『外交とは何か』(法律文化社、2015年)など。

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