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イタリア事情斜め読み

ヴィズマーラ恵子|イタリア

移民を阻止するためにイタリアが支払う代償と不法移民の犯罪実態

iStock- Stadtratte

| イタリアの難民認定の状況

 2021年には97%のケースで、難民認定または少なくとも補助的な保護を受けたのが、アフガニスタン国民とソマリア国民(95%)であった。

 2021年に審査された申請の否定的な結果は、チュニジア(92%)、バングラデシュ(85%)、モロッコ(83%)の国民であり難民とは認められなかった。

 ヨーロッパで初めて「一時保護」を許可する条項というのは、ウクライナ国民の保護要請だけである。

 「一時保護」というものは、大量の人の流入の場合に適用される緊急メカニズムであり、難民認定の条件の有無や補助的保護を審査する必要なく、即時保護を提供することを目的としたものだ。

 UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)のデータによると、ウクライナ難民は現在、主にポーランド(250万人)、ルーマニア(64万5千人)、モルドバ共和国、ハンガリー(両国合わせて40万人)に住んでいる。

 イタリア内務省の最新データによると、2022年4月13日時点データでは、ウクライナ紛争から逃れイタリアに到着した合計 9万1,137 人、内訳は女性が4万7,112人 、男性が1万229 人、 未成年者が3万3,796 人となっている。


| イタリアでの亡命申請の実態

 昨年2022年のデータでは、亡命申請を行った人数の最多はスペインで116,140人、2番目がフランスで137,505人、3番目がドイツで 217,735人だったのに対し、イタリアは77,195人だった。
2022年の全体では、合計10,865人の外国人が特別保護を受け、亡命申請者の44%が一次保護ステータス、32%が国際的保護の形式を付与され、12%のみが特別保護ステータスを付与された。


欧州連合には加盟国間で共通するルールのダブリン規則がある。

 ダブリン規則とは、EU連合加盟国の領域内において国際的保護を求める庇護申請が申し立てられた場合、申請を優先的に審査する国を決定するための規則であり、原則として、難民としての庇護を求める者は、最初に到着したEU加盟国で申請を行い、審査が実施されることになる。

・申請はかならず一つの国によってのみ審査される。
・一度却下された者が他国で申請を再度試みたりすることは認められない。
・申請者の家族がいるなどのつながりをもつ国がある場合は、その国に移送され審査を受けることになる。
・EU加盟国内で庇護申請を行った者は、ユーロダック(Eurodac)というデータベースシステムに登録される。

 もちろんイタリアも、国際保護の申請を評価する場合は、ダブリン規則によって定められた欧州連合の立法に添って、まずは、申請を決定する権限がその国にあるかどうかの確認を欧州連合に求める。次に、別の国に移送する必要があるかどうかを審査してもらう。決定を下すのは欧州連合である。
保護申請認定の是非をイタリアの一国一存で決めるものではない、まずは欧州連合にお伺いを立てなければいけない点は、日本とは大きく異なる。


| イタリアでの外国人の犯罪

 暴力行為の39%は外国人によるもので、現在は 8.7%に相当する。
移民関係書類統計をするIdos研究センターによると、イタリア領土内に不定期に滞在する人々67.5%が関与していると推定しており、これは3人に2人以上という数字になる。

 犯罪の種類は、性的暴力、麻薬の製造、所持・密売、強盗・ゆすり、窃盗、強盗、警察官など公務員に対する脅迫または暴力などの公務執行妨害である。

 これらの犯罪の多くは、非正規外国人によるもの。つまりイタリアに滞在しているが滞在許可証を持たない不法滞在の外国籍の人たちによって犯されていることもわかっている。

 非正規外国人は、不法に暮らしているため、正規の雇用を見つけることができず、支援策を利用することもできない。
これらの一連の要因が、犯罪をさらに蔓延させる原因となっている。

 2016年の調査によると、一般の外国人だけを考慮した場合、犯罪率はイタリア人の犯罪率とほぼ同じになるという。しかし、一般的に、外国人は、合法か非合法かに関わらず、イタリア人が犯した犯罪とは異なる犯罪を犯していることや、それほど重大犯罪ではないと考えられている犯罪に関しては、それが刑期の長さに反映されている事に注目しなければならない。

短期刑に服する外国人の割合が高い
刑期別のイタリア人と外国人の受刑者数(2020年)

※外国人の場合はイタリアに合法的に居住している人のみが考慮されるため、不法移民は除外される。

 実際には、1年未満の懲役刑で服役している受刑者は全体のほぼ半分を占めている。
これはアラブ系イタリア人のマグレブ人第二世代という人達である。

2021年の大晦日にミラノのドゥオーモ広場で、30人の若者が少女に性的暴行を加えたという事件があった。それ以来、2022年からイタリアでは性暴力が爆発的に蔓延しているのが現状だ。

 2022年の3月、17歳と18歳のチュニジア国民2人が未成年者の携帯と金銭を強奪したのちに路上で性的暴行を加えて逮捕された。

 3月26日土曜日の午後、ミラノでは市内で最も交通量の多い大通りの一つであるブエノスアイレス通りが、前科がたくさんある不法移民のマリ国籍の男が散歩をしていた二人の女性に性的暴行を加えた。

 またその2日後にミラノのセンピオーネ公園で26歳の女性が、バラを売っている不法移民から性被害、同じ夜、2人の男が少女に嫌がらせをし、助けに入った人が殴られて怪我をしたという傷害事件があった。

 同日、ナポリでも不法移民が白昼堂々女性警官を強姦しようとする事件が発生した。同じくナポリでは、15歳の学生が、学校から帰る途中にナポリ中央駅の近くでレイプされそうになっているのを通行人が助けたというニュースもあった。加害者はパキスタン出身の不法移民だった。

イタリアに居住する外国人の人口は5,306,548人で、総人口の8.8%に相当する。
そのうち、集団性暴力加害者の44.7%もが外国人だった。


出典:アンティゴネ とDapのデータに関するOpenpolisの詳細 (最終更新日:2022年5月24日火曜日)で、アンティゴネのデータが示すように、外国人囚人とイタリア人囚人の格差は刑期が増加するにつれて拡大している。
 
 外国人囚人は、1年未満の刑に服している受刑者全体のほぼ半数を占めているが、20年以上の受刑者ではわずか12%にすぎない。
イタリアには死刑がないため、最も重い極刑は無期懲役だが、その%はさらに下がる。

 外国人は「公然と」路上で犯罪を犯すことが多く、そこでは身元が特定されやすいということもある。
さらに、法的な観点から、通常、自宅拘禁、保護観察処分、半自由といった、刑務所での服役に代わる手段もあるが、 外国人はイタリア人に比べて不利な立場にあるという事実も、外国人囚人の数の増加につながっている。

 統計的には、外国人人口の方が犯罪にさらされやすいという事実がある。
それに加えて、外国人犯罪者の多くには、家族のいない若い男性という特徴があり、その特徴はどの国籍でも犯罪率の高さと相関している。

データが無い、なぜ!

 欧州連合統計局「ユーロスタット」によるとイタリア、スペイン、ドイツ、フランスであらゆる国籍の判決を受けた人の数が示されている。
なぜか、フランスとイタリアでは 2019年以降のデータがないというのも非常におかしなことだ。

 外国人の有罪判決者数が増加したのは、2010年から2018年(すべての国のデータが入手可能な最後の年)では、スペインのみが+20.9%で 、約25,000から30,000になった。
 一方、ドイツ、フランス、イタリアでは縮小が見られ、特にフランスで顕著で-32.4%。
2010年から2018年の間にイタリアで有罪判決を受けた人の数は-15.1%。
これらのデータは、人口に占める外国人比率の増加にもかかわらず、ヨーロッパ社会の安全性が低下していないことを示している。
実際、犯罪全体は若干の減少を記録している。

 このように、移民と犯罪の関係が非常に複雑であって、一概には外国人不法移民・不法滞在者が増えたから犯罪が増えたとは言えないデータというものがイタリアには存在し、ここ数年、移民の到着数は増加しているが、一般犯罪は増加していない。
 2つの現象「移民の増加と犯罪数」の間に関連付けが行われることがないように、データが存在するのが2010年から2018年の間のみで、移民受け入れに寛容な態度を示してきた左派政権時代のものだけであるという点、それ以降はなぜデータがないのか?という疑問点が残る。

| イタリアのクトロ法

外国人犯罪者の強制送還について

 前述で述べたように、外国人不法滞在者の犯す犯罪には、性的暴力、麻薬の製造、所持・密売、強盗・ゆすり、窃盗、強盗、警察官など公務員に対する脅迫または暴力などの公務執行妨害などがある。

 亡命・庇護希望の申請者が1つでも犯罪を犯し刑事訴訟手続中であった場合、また、有罪判決が下された場合に庇護申請は拒否され停止される。
さらに、難民が出身国に戻った場合、たとえ一時的であっても、国際的および補助的な保護を失うことも規定したものである。

イタリアでは、長期滞在許可証の申請には、「無犯罪証明書」と「法的裁判係争中ではない」ことを証明する書類を提出する必要がある。

IMG_9173.jpg

イタリアで正規移民である筆者のイタリアにおける無犯罪証明と係争中裁判がないことを証明する書類。イタリア検察庁と裁判所から入手する必要がある。


| チュニジアの不安定性は、イタリアに反映される

 イタリアにとって最も重要な問題は着陸停止に関するもので、着陸停止数はここ数週間で記録的な数字に達している。

 EUの国境管理機関であるFrontexにとって、地中海中央部は今年も引き続きEUへの最も活発なルートであり、2023年の最初の6か月間で各国当局からほぼ6万6千件の検出が報告されている。

 そして状況は改善する見込みはない。同庁によると、犯罪グループ間の熾烈な競争の中、密航業者がリビアとチュニジアから出国する移民に低価格を提示するなど、中央地中海ルートに対する移民圧力の高まりは今後も数カ月続く可能性がある。
イタリア内務省 市民自由移民局の統計ダッシュボードのデータによると

7月19日までの最新データによると81,069人がイタリアに上陸。
前年同期と比べ4倍以上。

※このデータは現在移民として識別認定手続きが進行中の人のみで把握されている人数で、当局が把握できていない不法移民や密入国してすぐに逃亡した不法入国者はカウントされていない。


 北アフリカの国の情勢不安により、ここ数週間でイタリアへの出国者が無制限に増加している。

 アントニオ・タジャーニ外務大臣は昨年5月、この状況は移民の観点から影響を及ぼし「予見できない結果」をもたらす可能性があるシナリオとしてローマで「極度の懸念を引き起こしている」と述べていた。

 そのためイタリア政府は、チュニジアへの経済支援のゴーサインを得るために、IMF(国際通貨基金)に圧力をかけ、EU諸国や湾岸君主国とのロビー活動に専念してきた。しかし、合意が得られるまでには時間がかかった。

また、チュニジアは、約10%の急激なインフレと17.5%の一般失業率を受けて、2023年はサイード大統領の辞任を要求するために街頭に繰り出したチュニジア人による一連のデモで幕を開けた。

 サイード大統領が、IMFとの合意に達することを拒否したのは、ポピュリスト政策の表れである。金融機関の指導者らは、サイード大統領が融資実行後の経済状況の悪化をIMFのせいにするのではないかと懸念していた。


| 移民を阻止するためにイタリアとEUがチュニジアに支払った代償

「私たちのチームは、私たちが共有する繁栄、安定、そして将来の世代への投資を表す強力なパッケージを迅速に提供するために懸命に取り組んできました。」

 数ヶ月にわたって作業が進められてきた待望の協定は、貿易と投資の支援を規定しており、明らかに移民に対処するものである。

EU委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長はツイートでこう述べ、EUとチュニジアの間で6月に合意された協定の「5つの柱」の協定が結ばれた。
いわゆる「チーム・ヨーロッパ」と呼ばれる欧州代表団が協定を持ち帰ることを目的にチュニジアに飛ぶのは、ここ数週間で3度目となり、数か月にわたる交渉を続けてきた。

EUとチュニジア間の覚書の 5つの柱とは、
①移民問題
②EUからの財政援助
③経済関係の強化
④グリーンエネルギー(ガスだけでなく再生可能資源も) に関する協力
⑤地中海の両岸間の文化交流の促進

である。

特にヨーロッパの観点から見ると、この協定の中心となるのは移民問題である。
実際、EUはチュニジアに約10億ユーロ(約1,565億円)を提供する用意があるが、それを受けるためには、アフリカの国が移民の出国に対抗し、欧州に到達した亡命希望者を連れ戻すことにチュニジアは尽力することを条件とした。

 詳細には、ブリュッセルは長期財政援助に9億ユーロ(約1,408億円)、国境管理支援に1億500万ユーロ(約164億3,300万円)、追加支援として1億5000万ユーロ(約2,347億円)を投資する用意があり、チュニジアに直ちに割り当てられる予定であるという。

 さらに、EUはチュニジア政府が国際通貨基金から追加資金を獲得できるよう支援する予定である。これはチュニジアの財政破綻を回避し、経済を改善するのに役立つすべての資金となるだろう。

欧州委員会委員長の宣言によれば、「条件が許せば提供される」とされている。
この言及は、北アフリカの国を支援するための融資をめぐる国際通貨基金(IMF)とチュニスの間の膠着状態に言及している。


| それぞれの声明

イタリアのジョルジャ・メローニ首相は、覚書署名後の他の首脳との共同記者会見で、「今日重要な一歩が踏み出された。これは出発点であり、我々が設定した目標を実施するためにはさまざまな合意に従う必要がある。この協定は、"欧州と他の北アフリカ諸国との関係のモデル"であり、異なるパートナーシップの出発点となるだろう。」と、述べた。

チュニジアのカイス・サイード大統領は、
「我々が署名した覚書は、国民間の親密さを確立するものである」と、述べた。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、
「今日、私たちは移住に関する効果的な協力をこれまで以上に必要としています。私たちは無謀なビジネスモデルに従って人命を搾取する人身売買業者の活動と戦わなければなりません」と述べ、

「我々は人身売買撲滅作戦でチュニジアと協力し、国際法を完全に遵守してSAR作戦や国境管理と本国送還での連携を強化します。」と付け加え

 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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