日本でミュージカルとして昨年秋に東京と大阪で全１６公演された『SERI ~ひとつのいのち』がニューヨークのミッドタウンにある会場（スカンジナビアハウス）にて、１２月１１日に映像として上演された。

原作は倉本美香著「未完の贈り物」（２０１２年）の実話で、脚本を高橋亜子、音楽を桑原まこが担当。開催している団体は、一般社団法人 TruBlue。

物語は、ニューヨークで会計士として働く父親と、元CAの母親の間に生まれた、眼球がなく、鼻も不自然な形のベイビー、セリ（千瑠）のお話。

「五体不満足」という著者で有名な乙武君の母親はベイビーに手足がなくても「かわいい」って言ったらしいが、この母親はちがった。医者が見落としたことを責め裁判をおこす。

この物語の背後には、このところ顕著な問題となっているルッキズムがあると思った。

きっと母親は、CAという職業を選んだ女性なので、私のステレオタイプなイメージではあるが、美人だったに違いない。だからこそ、娘に目がなくて鼻も不自然な形ということにこだわりがあったのではないだろうか？

父親は、まだ生まれたばかりの子の義眼を入れるために、最新の施術を行うことを否定する。ベイビーが強引に義眼を入れるための異物を入れられ、まぶたを縫い付けられる苦しみを母親はどう思いながらやったのだろう？

「障がいをもって生まれた子に対しての形成外科治療なのでそれは違う。」っていう意見もあるだろうが、幼い子に整形をする母親に、わずかだけど感覚が似ている気がした。

たしかに容姿のことで、いじめにあったり、人から奇異な目で見られることは、本人がもっともつらいだろうが、親もつらい。そのつらさを除外するためには整形しかない。セリの鼻は成長後に形成外科手術が施され、空気が通るようになったことで、滞っていた身体の成長が促進されたという。

ベイビーは眼球がないため、光が目に入ることで、松果体から分泌され睡眠を促進する作用のあるメラトニンがでないため、睡眠が浅い。

泣いてばかりのベイビーを毎日抱え、睡眠もままならず育児ノイローゼ寸前だったのだろう、セリの母親は娘とともに命を絶つことも考えたが、娘がマンハッタンの音を耳にした瞬間に笑うのだった。

そこから母親は少しずつ、娘を受け入れていくようになる。

裁判には、医者が示談金で応じることとなるが、母親は医者に直接会って、自分の娘が生まれてきたことを愛でてほしいと願う。しかし医者はそれを拒否するのだった。

ニューヨークのような都会に住んでお金の入る職業についてるからって幸せなのか？といえば、そうでなく、誰にも平等に幸せと不幸せはやってくる。この母親の強さは、自分の家族が直面した困難や葛藤を物語として記し発表したことだ。

セリと家族の前向きな姿勢をみせることによって、きっと誰かがどこかで救われていると思う。

加えて、彼らがニューヨークにいたことで、障がいのある（people with disability)子をしっかり支えることのできる学校に恵まれたことは本当によかった。


どんな人も生まれてくる命には価値があり、親だからこそ、その大切な命の価値を守ってあげるべきだということにようやく気付く。

もし自分がセリの母親の立場ならどうしただろう？と考えた。

乙武君の母親のように、「かわいい」って言ってあげられる自信はない。

セリの母親のように医者を訴えたりはしないかもしれないけど、どちらかといえば、セリの母親のように躍起になって普通の顔というものを求めていたかもしれない。そして、自分の葛藤や夫婦のいざこざをきっと物語にして書いてただろうなぁ～。

音楽も素晴らしいが、セリ役の女の子は、母親の胎内にいるシーンからダンス（ダンスというより舞踏の表現のほうが適切な感じはあるけど。）している。振り付けを担当しているのは、下司尚実。

生まれたばかりのベイビーが手足をモゾモゾ動かしているのもダンス、手術後に大声をあげてセリが泣いてるシーンもダンス、そしてセリが大人の女性になってからは、美しいダンスと歌声を披露した。

観ているほうも、苦しいつかえがとれたみたいに、希望の光がリアルにみえた。

【関連サイト】
SERIオフィシャルサイト