最新記事
テロリズム

ISは復活し、イスラム過激派が活性化...モスクワ劇場テロで狼煙を上げた「テロ新時代」を地政学で読み解く

A GROWING THREAT

2024年4月12日(金)17時37分
カビル・タネジャ(オブザーバー・リサーチ財団フェロー)
モスクワ劇場テロ現場

テロ事件後のモスクワ郊外のコンサート会場(3月25日) Tom Grimbert / Hans Lucas via Reuters Connect

<モスクワ劇場テロでイスラム国(IS)系団体が犯行声明。大国同士の対立が生んだ亀裂を温床とし、過激派が世界に散らばり支持拡大を図る>

モスクワ郊外のコンサート会場で3月22日に起きたテロ事件は、どこかで見たことがあるような、不気味な感覚をロシア人に与えた。モスクワでは2002年10月にも、チェチェン共和国の独立派テロリストによる劇場占拠事件が起きて、130人以上の人質が犠牲になっているのだ。

今回の事件(これまでのところ死者144人以上)は、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出している。ロシア当局が容疑者を尋問したところ、彼らはウクライナを目指していると語ったという。ネット上ではこの話が独り歩きして、一時は陰謀論が激しく飛び交った。

ところが、IS傘下のグループ「ISホラサン州(IS-K)」に注目が集まり始めると、全く異なる説が飛び出した。この事件は、欧米諸国がイスラム主義組織に成り済まして起こしたというのだ(主にロシアのメディアで取り沙汰されている説で、SNSで拡散している)。

こうした多種多様な陰謀論によって、一番得をしているのはISだろう。ISのアブ・フダイファ・アンサリ報道官は、事件の数日後に41分ほどの音声メッセージを発表した。

ただし、ロシアへの言及はごくわずかだ。代わりに重点が置かれているのは、ISが設立10周年を迎えたこと。そしてアフリカから東南アジアまで、世界中にプレゼンスを確立していることを強調して、ISは衰退したという見方を覆そうとしている。さらにISの戦士たちをたたえ、民主主義を非難した。

インドに甘いタリバンを叱責

このメッセージが発表される数時間前には、IS-Kがパシュトゥー語(アフガニスタンの公用語の1つ)で18分間のメッセージを発表している。アフガニスタンの政権を握るイスラム主義組織タリバンが、インドに歩み寄っていることを批判する内容だ(IS-Kはインドを反イスラム国家と見なしている)。

IS-Kは22年、アフガニスタンの首都カブールのシーク教寺院を襲撃する事件を起こした。このときインド政府は、安全のためにアフガニスタンに住むシーク教徒とヒンドゥー教徒の受け入れを申し入れ、タリバン政権が協力した経緯がある。

これまでにも、ISまたはIS-Kがインドを非難する声明を発表したことはある。しかし今回のパシュトゥー語のメッセージでやり玉に挙がったのはタリバンの行動であり、必ずしもインドや、その民主主義体制、あるいはヒンドゥー至上主義的な政治ではないことは興味深い。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米マスターカード、1─3月1株利益が市場予想超え 

ビジネス

日経平均は続落で寄り付く、米ハイテク株安や円高が重

ビジネス

テスラの「ギガキャスト」計画後退、事業環境の逆風反

ワールド

ロシア、ウクライナで化学兵器使用 禁止条約に違反=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉起動

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    ポーランド政府の呼び出しをロシア大使が無視、ミサ…

  • 6

    米中逆転は遠のいた?──2021年にアメリカの76%に達し…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    「レースのパンツ」が重大な感染症を引き起こす原因に

  • 9

    パレスチナ支持の学生運動を激化させた2つの要因

  • 10

    大卒でない人にはチャンスも与えられない...そんなア…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 8

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」…

  • 9

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 10

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中