最新記事
現代史

ハマスはイスラエルに「必要」な存在だった...パレスチナ「75年間の歴史」で、紛争を基礎から理解する

Vengeance Is Not a Policy

2023年12月21日(木)17時13分
イアン・ラスティック(ペンシルベニア大学名誉教授〔中東政治〕)
第3次中東戦争でのイスラエル軍

第3次中東戦争でエジプトのシナイ半島へ進むイスラエル軍の戦車(1967年6月) AP/AFLO

<イスラエルとハマスの奇妙すぎる関係史を解説。ガザという名の監獄を解体しない限り「囚人たちの反乱」はまた起こる>

イスラム組織ハマスとイスラム聖戦が10月7日、イスラエルに仕掛けた奇襲攻撃──その驚くべき光景と恐怖のせいで、この事件の原因と再発防止策を正しく理解するのが困難になっている。

この襲撃に関する報道は、残虐性と半世紀前の第4次中東戦争との不気味な類似を強調してきた。1973年当時、イスラエルの情報機関は全知全能で、プロ集団の軍は事態をしっかり管理しているという「神話」が流布していたが、スエズ運河付近やゴラン高原で勃発した緊急事態はそんな評判を粉々に打ち砕いた。

■【画像】パレスチナ紛争75年の歴史まとめ「年表」と、領土変遷マップ

だが今回の失敗のショックはさらに大きい。この攻撃が占領地の駐留軍ではなく、イスラエル領内の民間人に対するものだったからだ。

目撃した虐殺の原因を知りたい、この問題に対処したいと私たちが本気で願うのであれば、視点の「時間枠」を変えなくてはならない。さもなければ、私たちは同じ光景を再び目撃することになる。

物語の語り手ならば、誰もが知っている。どこから話を始めるかを決めれば、語り手の仕事の大半は完了するということを。この事件を10月7日、安息日の祝日の朝から始めるなら、アメリカの9.11同時多発テロ(2001年)と同じ物語──いわれのない野蛮な暴力にさらされた無垢な犠牲者の物語になる。

しかし、もし始まりが1948年だったとしたら? かつて祖父母が暮らしていた土地に、武装した子や孫が一瞬だけ戻り、暴力行為を働いたとしたら? 物語の倫理的意味と、納得のいく結末の条件は一変する。

ハマスらが始めたのは戦争ではない?

この長い時間枠で見れば、ハマスとイスラム聖戦は戦争を始めたのではない。監獄で反乱を起こしたのだ。それを理解するためには、歴史的背景を少しだけ知る必要がある。

48年5月にイスラエルが建国を宣言する以前、ガザ周辺の土地にはパレスチナ系アラブ人の町や村が数十あった。最大の人口集積地はアル・マジュダル──現在は完全にユダヤ人の都市となったアシュケロンだ。

国連総会がパレスチナをユダヤ人国家とパレスチナ系アラブ人国家に分割する決議を採択した47年11月、この地域(ガザとその周辺、ネゲブ砂漠の一部を含む)はアラブ人国家に振り分けられた。だが国連には、この決議を実現するための資金、軍、行政機構を提供する力がなかった。

この地域を30年近く委任統治していたイギリスは、パレスチナを放り出し、都市や地域から次々と軍を撤退させた。その過程でユダヤ人とアラブ人は、どの地域が自分たちに帰属するかをめぐり血なまぐさい内戦に突入した。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

フィリピン、南シナ海巡る合意否定 「中国のプロパガ

ビジネス

中国、日本の輸出規制案は通常貿易に悪影響 「企業の

ビジネス

中国不動産株が急伸、党中央政治局が政策緩和討議との

ビジネス

豪BHP、英アングロへの買収提案の改善検討=関係筋
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中