最新記事

中央アジア

中央アジアでうごめく「ロシア後」の地政学

Players Are Reconsidering Their Bets

2023年9月25日(月)13時00分
ユージーン・チャオソフスキー(ニューライン研究所研究員)

231003P34NW_CKS_01.jpg

アルメニアのニコル・パシニャン首相(左)はロシアのウラジーミル・プーチン大統領の対応に不満を示した GETTY IMAGES

米・アルメニア軍事演習

アルメニアはロシア主導の集団安全保障条約機構(CSTO)の創設メンバーだが、何もしてくれないロシアに不満を募らせ、今年1月にCSTOの合同軍事演習を自国で開催しないことを表明。代わりに9月、アメリカとの合同軍事演習を実施した。

こうした動きは、必ずしもアルメニアの全面的なロシア離れを示唆するものではない。両国の経済と安全保障、そして政治は複雑に絡み合っており、そう簡単に解きほぐせるものではない。

とはいえ、この地域におけるロシアの影響力が低下していることは間違いない。現在のロシアは、軍事力の大部分をウクライナに集中させているだけでなく、ナゴルノカラバフ問題で現状維持に徹しているように見えるなど、外交面も十分機能していない。

代わりに南カフカスで存在感を増しているのはアゼルバイジャンと親しいトルコや、アルメニアに好意的なイランなどの地域大国。アルメニアのロシアに対する落胆を機に、アメリカもこの地域の安全保障に(限定的だが)関わるチャンスを得た。

アメリカは中央アジアでも、プレゼンス拡大に乗り出している。ジョー・バイデン米大統領は9月19日、国連総会のために訪米中のカザフスタンとウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギス、タジキスタンの中央アジア5カ国(C5)の首脳と会合を開いた。「C5プラス1」の会合は15年に始まったが、アメリカから大統領が出席したのは今回が初めてだ。

中央アジアでは今、経済的な競争が激しくなっている。その中心にいるのは中国だ。

エネルギーや鉱物資源が豊富で、地理的にも中国と近い中央アジアは、中国の広域経済圏構想「一帯一路」の要の1つに位置付けられており、中国はこの地域の石油やガスパイプラインや鉄道、道路などのインフラ整備に莫大な投資をしている。

中国は、政治や安全保障面でも中央アジア諸国との関係を強化している。タジキスタンに中国の軍事施設を建設したのがいい例だ。ただし中央アジアは基本的にロシアの影響圏であることへの配慮は忘れておらず、安全保障面はロシア、経済面は中国という一種のすみ分けを確立してきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米鉱工業生産、4月製造業は0.3%低下 市場予想下

ビジネス

米4月輸入物価、前月比0.9%上昇 約2年ぶり大幅

ワールド

EXCLUSIVE-トルコ、予算削減額は予想上回る

ビジネス

米金利維持が物価目標達成につながる=クリーブランド
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 3

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃のイスラエル」は止まらない

  • 4

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 5

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 6

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 7

    2023年の北半球、過去2000年で最も暑い夏──温暖化が…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    仰向けで微動だにせず...食事にありつきたい「演技派…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中