最新記事
スキャンダル

タイの漁師にブラジルの砂丘、他にも... フィリピン観光PRの新映像、一部国外で撮影されていた

2023年7月10日(月)17時30分
青葉やまと

知人からの一報で発覚

問題を最初に指摘したブロガーのサソット氏は、Facebookへの投稿を通じ、映像に疑問を抱いたきっかけを語っている。

それによるとサソット氏は高校時代の知人から、前述の投網のショットについて、この知人が使ったのと同じストック映像が使われているとの情報を得たという。知人はこれがタイで撮影された素材だということを知っていたため不自然に感じ、ブロガーのサソット氏に一報を入れた。

ストック映像とは、複数の映像プロジェクトで使い回す目的で販売・配布されている素材を指す。特定のプロジェクト向けのオリジナル映像ではない反面、撮影チームが現地に出向かなくても手軽に映像を入手できる利点がある。

情報を受けたサソット氏は制作関係者に接触し、不適切な素材が使用された経緯を調査した。得られた情報によると、本来このシーンはフィリピン諸島の中程に位置するボラカイ島で4月29日に撮影が予定されていたものの、フライトの前日になって撮影クルーはキャンセルを告げられたという。何らかの事情で撮影できなかったショットを既存のストック素材で補った際、撮影地の確認を怠ったという経緯のようだ。

氏はほかにも疑わしいショットがあるのではないかと調査を進め、少なくとも5つのショットがフィリピン以外の情景を映したものであると突き止めている。

不適切なストック素材を使用

米CNNによると広告代理店は、「イメージ映像にストック素材を使用することは業界の標準的な慣行ですが、国外のストック映像を使用したことは当代理店側の不運な見落としでした」と述べ、結果的に観光キャンペーンの目的に沿わない「非常に不適切な」行為であったと認めている。

BBCの報道によると、フィリピンのクリスティーナ・ガルシア・フラスコ観光長官は問題の発覚以前から、適切な素材を使用するよう広告代理店に重ねて求めていたという。同観光長官は、こうした確認のたびに代理店側は、「すべての素材のオリジナリティと所有権が適切であると繰り返し観光省に対して保証した」としている。

CNNによるとフィリピン観光省は、動画に関しては広告代理店が自費で製作したものだと述べ、直接的には公金は投入されていないと強調している。一方でフィルタイムスは、「Love the Philippines」キャンペーン全体を通じて同広告代理店に4900万ペソ(約1億3000万円)が支払われると指摘しており、動画制作もこの契約内に含まれていた可能性がある。

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国企業、28年までに宇宙旅行ビジネス始動へ

ワールド

焦点:笛吹けど踊らぬ中国の住宅開発融資、不動産不況

ワールド

中国人民銀、住宅ローン金利と頭金比率の引き下げを発

ワールド

米の低炭素エネルギー投資1兆ドル減、トランプ氏勝利
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中