最新記事

中東

中東諸国の「政略結婚ブーム」に乗り遅れる、イスラエルに足りないもの

PRAGMATISM PREVAILS

2023年4月26日(水)15時47分
シュロモ・ベンアミ(歴史家、イスラエル元外相)

トルコはシリア、イスラエル双方と関係を修復している。イランを後ろ盾とするシリアを再び受け入れることには、アラブ諸国も前向きのようだ。2011年の内戦勃発以来、孤立してきたシリアのアサド大統領は3月中旬にUAEを訪問。同月下旬には、サウジアラビアと関係再開で合意した。

しかし「中東式結婚」の重大な特徴は、当事国の中核的利益を反映する政策が変化しない点にある。サウジアラビアに再び大使館を設置しようと、イランはレバノンにおける代理組織で、イスラエルと敵対するヒズボラへの支援を縮小したりはしない。

だが何よりもまず、イスラエルは国内政治の秩序を回復し、占領地での衝突悪化を防ぎ、対米関係を改善する必要がある(編集部注:イスラエルのコーヘン外相は4月19日、サウジアラビア訪問を検討中だと語った)。

さらに根源的にはアラブ諸国やトルコ、イランが了解済みの事実を、イスラエルは理解しなければならない。完全勝利という不可能な目標を追求するより、現実主義的な取引を結ぶほうがずっと得策だ、と。

イスラエルがUAEやバーレーン、モロッコと相次ぎ国交正常化した20年のアブラハム合意は、アメリカの圧力の産物という面が強かった。現在、新たなパートナーになり始めたアラブ諸国にとって、国内危機を抱えるばかりか、対イラン戦略の再考を拒むイスラエルの地位は既に低下している。

イスラエルはイランとの「影の戦争」にこだわり、サイバー攻撃やシリア国内のイラン関連施設への空爆を続けている。中東は「結婚ブーム」の最中だが、ビジョンや勇気に欠けるイスラエルが近いうちに、縁組にこぎ着けることはなさそうだ。

©Project Syndicate

230502p16NW_Shlomo_Ben_Ami.jpgシュロモ・ベンアミ
SHLOMO BEN-AMI
イスラエル元外相。世界各地の紛争解決を目指す「トレド国際平和センター」副所長。著書に『戦争の痕、平和の傷──イスラエルとアラブの悲劇』がある。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、大麻規制緩和案を発表 医療用など使用拡大も

ビジネス

資本への悪影響など考えBBVAの買収提案を拒否=サ

ワールド

原油先物は堅調、需要回復期待で 週間ベースでも上昇

ワールド

ガザで食料尽きる恐れ、ラファ作戦で支援困難に=国連
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中