最新記事

人民元

「ドルを超える日はまだ遠い」人民元を過大評価しなくていい理由について

A REALITY CHECK FOR THE RENMINBI

2023年4月21日(金)14時20分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
人民元

人民元が世界の基軸通貨となるには資本規制の緩和が不可欠 XU JINBAIーFUTURE PUBLISHING/GETTY IMAGES

<人民元の国際化が本格化し始めた。中国がドルによる世界支配から脱したいと考えているのは周知の事実だが、それほど簡単なことではない>

国の通貨・人民元の国際化が、ようやく本格化し始めたようだ。

中国とブラジルは3月29日、貿易決済はドルではなく、それぞれの自国通貨を使うことで合意。前日には中国海洋石油集団(CNOOC)とフランスの石油最大手トタルエナジーズが、液化天然ガスの取引を初めて人民元建てで完了した。

ロシアのプーチン大統領は最近、中国に限らずアジア、アフリカ、中南米諸国との貿易で人民元を決済手段にしたいと表明。サウジアラビアも対中石油輸出の一部を人民元建て決済にする可能性について、昨年から中国と協議している。

中国が人民元を国際通貨にして、ドルによる世界支配から脱したいと考えているのは周知の事実だ。

将来起こり得るアメリカ主導の経済制裁への地政学的な防御策と受け取られがちだが、人民元が世界の主要決済通貨の1つになれば中国経済にも大きな利益になるだろう。

私のグループが進めている研究によれば、韓国企業の対中輸出に占める人民元建ての割合は2008年以前の0%から20年には6%近くまで上昇した。

16年10月、人民元はIMF(国際通貨基金)のSDR(特別引き出し権)通貨バスケットに採用され、ドル、ユーロ、円、ポンドに仲間入りした。

こうした重要な進展はあるものの、人民元がドルの地位を脅かしている度合いを過大評価してはならない。韓国の対中輸出のうちドル建ての割合は、06年の98%近くから20年には約87%に低下したが、ドルの優位度はやや下がっただけで、中韓の2国間貿易でさえも人民元がドルに置き換わることはありそうにない。

しかも同時期の韓国の対米輸出の約99%はドル建てで、人民元建ては皆無だ。さらに、韓国の対日輸出はドル建てと円建てがほぼ同じ45%、残りはウォンとユーロ建てだ。

世界ではアメリカが当事国ではない貿易でもまだドル建てが支配的だが、人民元建ては中国との貿易取引にほぼ限られる。

【20%オフ】GOHHME 電気毛布 掛け敷き兼用【アマゾン タイムセール】

(※画像をクリックしてアマゾンで詳細を見る)

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中