最新記事

中国

中国の反体制派は「同期の非対称」問題を克服し、体制を転覆させられるか

THE CHINESE REVOLT ENDS?

2023年1月13日(金)12時25分
練乙錚(リアン・イーゼン、香港出身の経済学者)

230117p18_CGH_01edit720.jpg

厳しいゼロコロナ政策に抗議して「白紙」を掲げる北京の人々(2022年11月28日) THOMAS PETER-REUTERS

『史記』に伝わる「鹿を指して馬と為す」という故事がある。紀元前210年の話だ。

当時、権勢をほしいままにしていた宦官の趙高(ちょうこう)が、部下の忠誠心を試すために、鹿を指して馬だと言った。いや鹿は鹿だと言い張った者は排除され、処刑された。はい馬ですと答えた者は絶対的忠誠心の持ち主として重用され、その他大勢は沈黙した。

嘘で塗り固める権力体制

今日に至るまで、中国の権力者はこの手法を用いている。共産党の指導部も、危機に直面するたびに真っ赤な嘘をつく。そして社会の上から下までを無条件の支持者で固め、不忠者を排除し、その他大勢の者を沈黙させる。

そうして危機を乗り越えれば、党の権力は盤石となる。

無謀な大躍進政策で多くの餓死者を出した1958年の毛沢東も、天安門事件で多くの若者を死なせた1989年の鄧小平も、この手法で生き延びた。

2023年の習近平もしかり。これが中国のソフトパワーであることを、世界、とりわけ欧米の人たちは理解していない。

しかも中国共産党は、この間にハード面でも支配体制の基盤を強化している。例えば、PCR検査の陽性者をQRコードでタグ付けして強制隔離するシステム。これはそのまま、反体制派の追跡と収監のツールとして利用できる。

封鎖した町で民家に押し入り、住人にPCR検査を強いた防護服姿のチームは、服を着替えればいつでも反体制派の家に踏み込める。中国全土に建てられた無数の巨大な隔離病棟は、いつでも政治犯の強制収容所に転用できる。新疆ウイグル自治区の今と同じだ。

この3年間で、こんなに便利な統治インフラを構築でき、じっくり試験運用することもできた。だからこそ今、共産党は都市封鎖を解き、経済の再建に乗り出したのだ。

しかし今回、中国の人々は意を決して街頭に出た。彼らが再び立ち上がり、あの国の体制全体を転覆させる可能性はないのだろうか?

あるとしても、容易ではない。全体主義の統治インフラは一段と強化されているし、中国の反体制派には容易にまとまらない「同期の非対称」という深刻な問題があるからだ。

あの国は広い。どこかで起きた反乱が各地に広がり、統一された主張と効果的な組織、堅固な指導部を持つ運動にまとまるまでには時間がかかる。

一方で共産党は上意下達の全国組織だから、すぐに同期して一斉に対応できる。今回のように一歩下がってガス抜きをするもよし、武力で弾圧するもよしだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ジャクソンホール会議、8月22─24日に開催=米カ

ビジネス

米国株式市場=最高値更新、CPI受け利下げ期待高ま

ビジネス

米シスコ、5─7月期売上高見通し予想上回る AI支

ワールド

ニューカレドニアに非常事態宣言、暴動の死者4人に 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 8

    奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩

  • 9

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 10

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋戦争の敗北」を招いた日本社会の大きな弱点とは?

  • 4

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中