最新記事

イラン

サッカー選手の死刑に反対の声を上げたシャキーラ、実は「イランの仇敵」

Shakira Highlights Iranian Soccer Player on Death Row Amid World Cup Final

2022年12月19日(月)15時35分
ニューズウィーク日本版編集部

イラン指導部はこんな露出は許さない(5月25日、カンヌ映画祭でのシャキーラ)Sarah Meyssonnier-REUTERS 

<ワールドカップ決勝の熱狂のなか、歌姫シャキールはイランで死刑に直面するサッカー選手の存在を訴え、釈放を求めた>

世界中のサッカーファンがワールドカップ決勝のアルゼンチン対フランス戦を見守る中、コロンビア出身の歌手シャキーラは自身のソーシャルメディアを通じて死刑囚監房にいるイラン人サッカー選手にスポットライトを当てた。

イランで女性の権利を守るデモに参加したアミール・ナスル・アザダニ選手(26)は、逮捕され、死刑判決を受けたと報じられている。スポーツ専門サイトのデッドスピンによると、ナスル・アザダニが参加した9月16日のデモでは治安当局者3人が死亡しており、イラン政府は「武装暴動」と断じている。

グラミー賞を3度受賞したラテンポップ・シンガーソングライターで「Hips Don't Lie──オシリは嘘つかない」などのヒット曲で知られるシャキーラは、12月18日朝のツイートで、苦況に陥っているナスル・アザダニのことを忘れなるな、とファンに呼びかけた。

「女性の権利を主張しただけで死刑囚として収監されているサッカー選手がいることを、今日のワールドカップの決勝戦で、フィールド上の選手と全世界が覚えていてくれることを心から願う」

さらに、続けてこうツイートした。「大切なことを思い出すために、心の中に1分以上の沈黙を捧げてほしい。そして、正義のために複数の人が団結して声をあげることを願っている」

一方、イラン当局にしてみればシャキーラは、古くからの「仇敵」だ。2013年にブラジルで開催されたFIFAコンフェデレーションズカップで、スペイン代表だった夫(当時)ジェラール・ピケの応援に来ていたシャキーラの姿が映し出されると、イラン指導部はパニックに陥った。普通の国ならよくあるセレブカットだが、厳格なイスラム教国イランでは、ヒジャブも被らず胸元が大きく開いたタンクトップを着た女性が国営テレビで一瞬でも放送されるのは初めてのことだったのだ。イランのシャキールファンは喜んで、「3チャンネルを見ろ」とか「今日はシャキーラが出たから明日はジェニファー・ロペスが出るかな」などとツイートして盛り上がったというが、10年経って、イランはますます弾圧を強めている。

国際的な有名女優も逮捕

ニューヨーク・ポスト紙によると、イラン当局がナスル・アザダニを逮捕したのは11月のことだった。彼には「神に対して戦いを仕掛けた」という嫌疑もかけられており、ヒジャブ着用違反の疑いで逮捕され、道徳警察の暴行をうけた22歳のマフサ・アミニの死に抗議した罪で、絞首刑になると伝えられている。

ナスル・アザダニの死刑の可能性について、仲間のサッカー選手たちは抗議の声をあげている。プロサッカー選手の国際団体FIFPRO (国際プロサッカー選手会)は12日のツイートで、この報道に関する怒りをあらわにした。

「FIFPROは、イランで女性の権利と基本的自由のための運動に参加したプロサッカー選手アミール・ナスル・アザダニが死刑の危機に直面しているという報道に衝撃を受け、不快感を覚えている」と記した。「私たちはアミールと連帯し、彼の処分を直ちに撤回することを求める」

反政府運動に対するイランの弾圧は止まるところを知らない。イランは当局は18日までに、イランの有名女性俳優タラネ・アリドゥスティを逮捕した。アリドゥスティは2017年の米アカデミー賞外国語映画賞を受賞した「セールスマン」で主役を演じている。ヒジャブを被らずに写真を撮らせたこと、手に女性の権利を訴える髪を持っていたことが原因の一つと言われている。


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か

ワールド

OPECプラス、減産延長の可能性 正式協議はまだ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中