最新記事

インドネシア

サッカー場事故で批判渦巻くなか就任した警察本部長が任命4日目で逮捕 麻薬関連容疑

2022年10月18日(火)13時30分
大塚智彦
逮捕されたテディ・ミナハサ州警察本部長

逮捕されたテディ・ミナハサ州警察本部長 KOMPASTV / YouTube

<麻薬の摘発会見で、押収品を披露していた警察幹部たちが薬漬けだった──>

インドネシアのジャワ島東ジャワ州の州警察本部長が10月14日、麻薬関連犯罪に関与した容疑で逮捕された。逮捕されたのはテディ・ミナハサ州警察本部長で、10月1日に発生したサッカー試合後の観客死亡事件を受けて西スマトラ州警察本部長から新たに10日に異動してきたばかりで、就任4日目の逮捕だった。

132人が死亡したサッカー場での悲劇を受けて国家警察は所轄のマラン市警察本部長を解任。サッカー場で警備に当たっていた指揮官9人を停職処分としていた。しかしテディ本部長の異動はサッカー場の事件とは無関係の人事であるとの立場を警察は強調していた。

今回の州警察本部長クラスの逮捕、それも麻薬関連容疑とあって、インドネシアでも驚きをもって受け止められている。

「そんな人物を抜擢するとは身体検査もしなかったのか」「国家警察長官の任命責任はどうなる」などの批判が渦巻き、警察への信頼は完全に失墜している。

悲劇の原因は警察の催涙弾と政府調査委

おりしも14日にはジョコ・ウィドド大統領が任命した政府調査委員会が「132人の犠牲を出したのは警察の催涙弾が原因」とする調査報告をまとめ大統領に提出した。

この調査報告では、催涙ガスを逃れるためにピッチに乱入したファンが一斉に出口に殺到して、多くが将棋倒しとなり下敷きで圧死したということで、事件の原因が「警察」にあると断定した。このため警察への国民の目は厳しくなっていた。

警察はそれまで、定員を大幅にオーバーするチケットが販売されたとか、試合終了前に開放する出入口が施錠されていたなどとして、試合の主催者やスタジアム関係者の責任を指摘、「責任逃れ」に終始していた。

警察内部の麻薬捜査で浮上

今回のテディ州警本部長の逮捕は、地元メディアの報道によるとジャカルタ首都圏警察が麻薬犯罪に関連した内部調査をする中で、麻薬使用の疑いで他の警察官の供述などから名前が浮上したという。

警察は3人の警察官を麻薬売買や麻薬をロッカーに隠していた容疑で逮捕しており逮捕後即座に職務から解任した。

3人の中には西スマトラ州ブキティンギ市警察本部長という幹部も含まれているという。彼は今回逮捕されたテディ東ジャワ州警本部長が転任する前の西スマトラ州警察本部長の職にあっただけに、同州での警察官による麻薬ネットワークの存在が疑われる事態となっている。

警察内部の犯罪関与に関しては、治安局長フェルディ・サンボ警察少将が妻と部下の不倫関係を知り部下を射殺するというスキャンダルがあったのだが、この事件も「闇の麻薬ビジネスを察知されたための口封じ」という側面があるという。

その証拠としてサンボ少将の事件では約100人の警察官が証拠隠滅に動いた疑いが出ている。これもサンボ少将自身に加えて警察組織に巣食う闇の麻薬ネットワーク擁護のためだったと言われている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

焦点:認知症薬レカネマブ、米で普及進まず 医師に「

ワールド

ナワリヌイ氏殺害、プーチン氏は命じず 米当局分析=

ビジネス

アングル:最高値のビットコイン、環境負荷論争も白熱

ビジネス

決算に厳しい目、FOMCは無風か=今週の米株式市場
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 9

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 10

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中