最新記事

英王室

チョコが大好物で、食材の無駄は許さない...お抱え料理人が明かすエリザベス女王の食卓

I Cooked for the Queen

2022年10月5日(水)17時50分
ダレン・マクグレーディー(元英王室シェフ)
ダレン・マクグレーディー

80年代に女王一家と(口ひげの男性が筆者) COURTESY OF DARREN MCGRADY

<エリザベス女王の気さくで飾らない人柄と、質素で堅実な暮らしぶりに魅了された11年を、元英王室シェフが語った>

1981年、私はロンドンのサボイ・ホテルのシェフとしてソース担当部門のトップを務めていた。その年の7月にチャールズ皇太子がダイアナ・スペンサーと結婚。大の王室ファンだった私の母がロイヤルウエディングを見たいと言い出し、私たちは前の晩からバッキンガム宮殿前で徹夜することになった。

式の開始を待つうちに王室のシェフになりたいという思いが芽生え、帰宅後エリザベス女王に手紙を書いた。程なく面接を受け、翌年から女王の専属シェフとして働き始めたが、それまでとは一転して20人のシェフの中で一番下っ端に。初仕事は馬の餌にするニンジンの皮むきだった。

私は一体何をしているんだと自問したが、宮殿は大きいがエゴの入る余地はない、と言われた。女王の希望どおりに料理しろ、女王の家で女王のために料理しているのだから、と。

初めてスコットランドのバルモラル城で勤務した日、昼下がりに城内を散策していると、遠くから女性が近づいてくるのが見えた。その人はヘッドスカーフにウェリントンブーツ、バブアーの防水ジャケットという格好で、コーギー犬を何匹も連れていた。

距離が狭まるにつれて胸の鼓動が速くなり、呼び方は「陛下」、声を掛けられるまで話し掛けては駄目だ、と自分に言い聞かせた。やがて犬たちが私を見てほえ始め、真っすぐ駆け寄ってきた。それを見て女王は噴き出した。私は回れ右をして走って逃げた。

女王と言葉を交わしたのはそれから数年後。ノーフォーク州サンドリンガムの御用邸にあるコテージで女王は客をもてなしていて、私は週末働き通しだった。女王が厨房に来て「素敵な週末をありがとう」と言った。女王が私だけを見つめている――相手を一瞬、そんな気分にさせるすべを心得ている人だった。

女王にかけられた言葉に感激

女王はよく厨房に来たり、厨房の窓から中をのぞいて「素敵な週末をありがとう。素晴らしい料理だったわ」と声を掛けたりしたものだ。私には金の腕時計やお金より値打ちのある言葉だった。何しろ相手は女王なのだから。

女王は大のチョコレート好きで、ダークチョコレートを使ったものを出せば間違いなくお気に召した。その気になれば好きなものが買えるのに、バルモラル城で育てたシカの肉など城や御用邸産の食材を好んだ。牛フィレ肉のステーキにウイスキーとマッシュルームのクリームソースを添えた料理やシカ肉料理も喜ばれたが、私が特に思い出深いのは日曜の昼食だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 3

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイジェリアの少年」...経験した偏見と苦難、そして現在の夢

  • 4

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 5

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 6

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 7

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 8

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの…

  • 9

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中