最新記事

旧ソ連

見えてきたウクライナの「勝利」...ロシア撤退で起きる「崩壊ドミノ」とは?

A New Liberation

2022年9月21日(水)17時10分
ブライアン・ウィットモア(アトランティック・カウンシル ユーラシアセンター非常勤上級研究員)

その影響は、黒海東岸に位置するジョージア(グルジア)や、ウクライナの南側に位置するモルドバなどにも及ぶだろう。ジョージアではもともと、欧米路線を支持する声が強く、国民の多くがNATOやEUへの加盟を求めてきた。だが、現在政権を握るのは、ロシアと関係が深い政党「ジョージアの夢」だ。

国際NGOトランスペアレンシー・インターナショナルの報告書によると、同党は12年に実業家のビジナ・イワニシビリによって創設された。実業家といっても、1990年代にロシアの国有財産売却で財を成したオリガルヒだ。

ジョージアでは03年のバラ革命以降、親米的なミハイル・サーカシビリ大統領が権力を握っていたが、腐敗との戦いに手こずり、08年には南オセチアがロシアの侵攻を受ける一方で、NATO加盟が進まないなど、国民の不満が高まっていた。

民主主義を後退させた「ジョージアの夢」

そんななか、イワニシビリの潤沢な資金に支えられた「ジョージアの夢」が登場して、たちまち議会で多数派を獲得すると13年の大統領選でも同党の候補を勝利させた。

ジョージアの夢は、民主主義を後退させ、サーカシビリら政敵を投獄し、親欧米的な政策も打ち切った。今年7月にはイラクリ・コバヒゼ党首が、アメリカとEUはジョージアとロシアに戦争をさせようとしていると非難した。

だが、同党の活動はイワニシビリの財力に完全に依存している。そしてイワニシビリの財力は、ロシアに依存している。ウクライナでロシアが敗北し、ロシアが政治的にも経済的にも弱体化すれば、イワニシビリの政治的影響力も低下するだろう。そうなれば親欧米的なリーダーが登場したり、ロシアが実効支配するアブハジアや南オセチアがジョージアに復帰したりする可能性も出てくるかもしれない。

モルドバも同じような影響を受ける可能性がある。同国では20年12月に親欧米派のマイア・サンドゥ大統領が誕生して、さまざまな改革を進めてきた。だが、最近はウクライナ戦争で農産物の輸出が滞っており、親ロシア派が盛り返している。

モルドバ東端の沿ドニエストル地域は、ロシア系住民が多いことからロシアに実効支配されており、ロシア兵1200人が駐留する。ウクライナでロシア軍が善戦し、黒海の要衝オデーサ(オデッサ)まで到達すれば、そのすぐ西側に位置する沿ドニエストル地域のロシア駐留軍と連携して、モルドバ全体を脅かすかもしれない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英米の企業、今年の選挙見据え為替ヘッジの期間を長期

ワールド

中国、対中強硬派の元米議員に制裁 内政干渉を理由に

ビジネス

JPモルガンの保守派株主が議案撤回、「政治化」への

ビジネス

米カーライルの新たな日本投資特化ファンド、過去最大
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気を失った...家族が語ったハマスによる「拉致」被害

  • 3

    「目を閉じれば雨の音...」テントにたかる「害虫」の大群、キャンパーが撮影した「トラウマ映像」にネット戦慄

  • 4

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 5

    ベトナム「植民地解放」70年を鮮やかな民族衣装で祝…

  • 6

    服着てる? ブルックス・ネイダーの「ほぼ丸見え」ネ…

  • 7

    高速鉄道熱に沸くアメリカ、先行する中国を追う──新…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    「韓国は詐欺大国」の事情とは

  • 10

    中国・ロシアのスパイとして法廷に立つ「愛国者」──…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    娘が「バイクで連れ去られる」動画を見て、父親は気…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『…

  • 10

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 1

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された──イスラエル人人質

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中