最新記事

温暖化

スイスの領土がひっそりと広がる 氷河融解で

2022年8月2日(火)18時36分
青葉やまと

国境線の変更内容は未公開、山小屋の主だけが知る

今回の変更に関しては、国境線が約100メートルにわたって引き直されたことが公表されているのみだ。山小屋の帰属をめぐるスイス・イタリア間の外交交渉は2018年にはじまり、昨年になって妥協案が原則合意に至った。AFPは、詳細な情報は来年以降、スイス政府が正式に承認した段階で発表されるとしている。

通例通りの扱いであれば、尾根部分でスイス領が拡大した埋め合わせとして、既存のスイス領の一部がイタリアに組み入れられる。スイス連邦地形局の元責任者であるジャン=フィリップ・アムシュタイン紙は、ガーディアン紙に対し、このようなケースでは表面積と価値が等しい土地を交換するのが通例だと説明している。

ただ、今回のケースでは交換は行われず、新たな国境線は新旧の分水嶺の間で着地する可能性がありそうだ。地形局のウィッチ氏はガーディアン紙に、「我々は差分を分割することで合意しました」と明かしている。

変更内容の詳細は公開されていないが、山小屋の管理人を務める51歳のルチオ・トゥルッコ氏だけでは、山小屋の帰属先がこれからもイタリアになることをすでに知らされたという。

トゥルッコ氏はガーディアン紙に対し、「私たちはずっとイタリアに所属してきましたから、山小屋はイタリアのものであり続けます」「メニューはイタリア語、ワインもイタリア産、税もイタリアのものです」と述べ、イタリアへの愛着を語った。

アルプスの高地では、人の手で引く国境線が自然現象に翻弄されるというめずらしい現象が起きているようだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ホンダ、電動化とソフトに10兆円投資 30年までに

ワールド

ロシア軍、ウクライナの全方面で前進している=ショイ

ビジネス

日経平均は3日続伸、約1カ月ぶり高水準 米CPI後

ワールド

中ロ首脳が北京で会談、包括的戦略パートナーシップ深
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史も「韻」を踏む

  • 3

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダブルの「大合唱」

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    マーク・ザッカーバーグ氏インタビュー「なぜAIを無…

  • 6

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 7

    それでもインドは中国に勝てない...国内企業の投資意…

  • 8

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 9

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中