最新記事

ウクライナ

手足を失い地獄に取り残されたウクライナ兵士を救え

Ukrainians Lie in Azovstal Plant Without Limbs: 'Impossible to Save'

2022年5月16日(月)15時18分
ナタリー・コラロッシ

アゾフターリ製鉄所内の野戦病院に座るウクライナ兵(5月10日) Dmytro Orest Kozatskyi/Press service ofAzov Regiment/REUTERS

<ウクライナ東部の要衝マウリポリをロシア軍から守るために戦って追い詰められた兵士たちが、最後の砦となったアゾフスターリ製鉄所から助けを求めている>

手や足を失った負傷者が何人も横たわっており、不衛生な状態で、治療の手立てもない、と、ウクライナ南部の港湾都市マリウポリでアゾフスターリ製鉄所に閉じ込められたウクライナ人兵士が訴えている。

この兵士は、ロシア軍の包囲下にある製鉄所内の状況を「とにかくひどい」と言い、負傷した兵士が600人もいると述べた。アゾフスターリ製鉄所は、マウリポリにおいてロシア軍に対する最後の砦だ。巨大な構造物の内部にウクライナ人戦闘員数百人が包囲され閉じ込められている。

CNNが14日に報じたところによると、この兵士はウクライナのテレビ放送で「腕や脚がない兵士たちが、ただ転がっている」と述べた。「多くは死んでいく。治療する手段がないからだ。医薬品がない。重傷者も......助けることは、ほぼ不可能だ」

製鉄所内の病院は「きわめて不衛生」で、ハエが群がり、「吐き気をもよおす」臭気に満ちているという。脚にひどい傷を負った兵士を衛生兵が麻酔なしで手術をするところも目撃した、とこの兵士は語った。

「負傷した兵士のベルトをかませ、麻酔なしで2人の医師が何かを取り除こうとしていた。兵士はベルト越しに叫び、足を痙攣させていた」

マスクに助けを要請

アゾフスターリ製鉄所は数週間にわたって激しい戦闘の舞台になっている。以前は女性や子供を含む民間人数十人が工場内にいたが、全員救出された。だがウクライナ兵数百人がまだ施設内に残っており、ロシア軍は彼らを解放する気配を見せていない。

CNNによると、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は13日、負傷者を退避させるための「非常に難しい」交渉が進んでいると述べ、「多数の人々」を救出する必要があると付け加えた。

製鉄所内に閉じ込められた兵士たちは、国際社会に助けを求めている。ウクライナ海兵隊の司令官セルヒイ・ボリナ少佐は、テスラのCEOで大富豪のイーロン・マスクに、脱出の手助けをしてほしいとツイッターで要請した。

「あなたは不可能を可能にするために、別の惑星から来たと言われている」と、ボリナ少佐は投稿した。「私は生き残ることがほぼ不可能な場所にいるのでちょうどいい。アゾフスターリから脱出できるよう、私たちを助けてほしい。あなたにできないなら、誰ならできる?  ヒントがほしい」

ロイターによると、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でも最近、アゾフスターリ製鉄所の兵士を支援するデモが起きている。デモ隊は横断幕を掲げて通りを行進し、「マリウポリの守備隊を救え、アゾフスタ-リを救え」「マリウポリの英雄に栄光あれ」と唱えた。

マリウポリでは、ロシアによる今回のウクライナ侵攻で最も血生臭い戦闘が行われており、戦闘中に2万人以上のウクライナ人が死亡したと言われている。

202404300507issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年4月30日/5月7日号(4月23日発売)は「世界が愛した日本アニメ30」特集。ジブリのほか、『鬼滅の刃』『AKIRA』『ドラゴンボール』『千年女優』『君の名は。』……[PLUS]北米を席巻する日本マンガ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドルが158円台乗せ、日銀の現状維持

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型グロース株高い

ビジネス

米PCE価格指数、インフレ率の緩やかな上昇示す 個

ワールド

「トランプ氏と喜んで討議」、バイデン氏が討論会に意
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 5

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 6

    大谷選手は被害者だけど「失格」...日本人の弱点は「…

  • 7

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    「性的」批判を一蹴 ローリング・ストーンズMVで妖…

  • 10

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 3

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈する動画...「吹き飛ばされた」と遺族(ロシア報道)

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中