最新記事

BOOKS

ロシア人YouTuberが「炎上」する理由を本質から考える

2022年4月18日(月)16時30分
印南敦史(作家、書評家)
『炎上社会を考える――自粛警察からキャンセルカルチャーまで』

Newsweek Japan

<人間には、感情のはけ口として誰かを非難したがる特性がある。炎上現象は、新自由主義が加速させるという一面を持つ>

ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから、あと少しで2カ月になろうとしている。この間、私たちも報道を通じて多くの出来事を知らされたわけで、そのたびにつらい気持ちになった人も多いだろう。

だが現地ウクライナの惨状のみならず、すぐ身近においても、人間の本質を見せつけられるような出来事が起きていることを見逃すべきではない。

例えば、在日ロシア人YouTuberに対して非難の声が寄せられていると聞いたとき、私はそれを痛感した。もちろんロシア人YouTuberといってもいろいろな人がいるだろうが、少なくとも私が確認したその人物は、本来なら受ける必要のない非難を受けているように見えた。

そもそも日本で育ち、現在も日本で暮らしているという人物だ。人種的にはロシア人ではあるけれど、日本語はペラペラ。話を聞いていると、日本人よりも日本人らしいなと感じたりもする。が、そんな人が、ロシア人というだけの理由で誹謗中傷にさらされている。

どう考えても理不尽な話だ。だが人間の本質を考えれば、残念ながらそれは十分に考えられる話でもある。

だからモヤモヤした気分になっていたのだが、そんなときに思い出したのが、数カ月前に読んだ『炎上社会を考える――自粛警察からキャンセルカルチャーまで』(伊藤昌亮・著、中公新書ラクレ)だった。

感情のはけ口として特定の誰かを非難したがる

本のサブタイトルからも分かるように、「炎上」の本質をさまざまな角度から検証したもの。在日ロシア人が非難されている状況を「炎上」と呼ぶべきかという問題はあるかもしれないが、呼び方はどうであれ、本質的な部分は共通するように感じるのだ。

例えばそれは、以下の記述からも分かることである。


本書の意図は、炎上という現象の構造を分析することではなく(そのための研究にはすでに優れたものがさまざまにある)、そうした現象をかくも夥(おびただ)しく呼び起こしてしまう今日の社会、すなわち炎上社会の成り立ちを分析することにある。言いかえればこの現象のメカニズムを解き明かすことではなく、その社会的な意味と文脈を明らかにすることだ。そのためそこに意味を与えている要素、とくに感情、欲望、イデオロギーなどの様態にも着目するとともに、その文脈を成している要素、政治や経済などの動向にも目を向けていく。(「はじめに」より)

炎上社会の成り立ちは、「出る杭は打たれる」ような風潮ともリンクするものではないだろうか。そういう意味でこの問題は「感情のはけ口として特定の誰かを非難したがる」という人間の特性と密接につながっているように感じる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

タイ自動車生産、3月は前年比-23% ピックアップ

ビジネス

米500社、第1四半期増益率見通し上向く 好決算相

ビジネス

トヨタ、タイでEV試験運用 ピックアップトラック乗

ビジネス

独失業者数、今年は過去10年で最多に 景気低迷で=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 10

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中