最新記事

歴史

今も闇に包まれた「マルコムX」暗殺事件...専門家が語る「疑惑」と「再捜査」

Who Killed Malcom X?

2022年1月13日(木)10時27分
アイマン・イスマイル(スレート誌)
マルコムX

当局はどうして暗殺事件の幕引きを急いだのか。2人の男性の無実を示す証拠をなぜ隠蔽したのか(演説するマルコムX、1963年) BETTMANNーGETTY IMAGESーSLATE

<1965年の射殺事件で服役した男性2人の有罪が、昨年11月になって取り消しに。それでも残る数々の疑問について歴史家のザヒール・アリに聞く>

ニューヨーク州の裁判所は昨年11月18日、半世紀以上前の黒人解放運動の指導者マルコムXの暗殺事件で、有罪判決を受けて服役した男性2人の有罪を取り消す決定をした。検察当局が再捜査の末、起訴の取り下げを申請していた。2人は80年代に仮釈放されたが、ハリル・イスラムは2009年に死去し、ムハンマド・アジズだけが存命だった。

マルコムXは、1965年2月にニューヨークのマンハッタンで射殺された。2人にはそのときのアリバイがあり、FBIとニューヨーク市警も無実を示す証拠を持っていた。有罪の根拠が極めて薄弱だということは、2020年に動画配信大手ネットフリックスで配信されたドキュメンタリー『マルコムX暗殺の真相』でも指摘されていた。

今回の有罪判決の取り消しにより疑問はさらに深まったと、マルコムXの生涯を研究してきた歴史家のザヒール・アリは言う。アリはコロンビア大学の「マルコムX・プロジェクト」の責任者などを経て、現在はニュージャージー州の名門寄宿学校(中・高校)ローレンスビル・スクールの「人種・社会正義センター」で事務局長を務めている人物だ。

『マルコムX暗殺の真相』でもインタビューされたアリに、スレート誌のアイマン・イスマイルが聞いた。

――マルコムXの生涯を研究してきた立場から見て、今回の有罪判決の取り消しはどれくらい大きな意味があるのか。

これにより事件に決着がついたと考えるのは間違いだ。新しい疑問がいくつも浮かんでくる。真犯人は誰なのか。捜査機関はどうしてこの男性たちを起訴し、早々と幕引きを図ったのか。それはただの判断ミスだったのか。真の実行犯を隠すためだったのか。

捜査をやり直すべきだ。半世紀以上にわたり不正義が続いてきた。これは取り返しのつかない過ちだ。いま存命なのはアジズだけだが、2人の家族やコミュニティーが被った傷はあまりにも大きい。

――マルコムX研究者の間では既に、2人を無実と考える見方が広がっていたという。あなたも早い段階で無罪説を聞いていたのか。

私が暗殺事件の詳細を最初に知ったのは90年代前半だったと思うが、そのとき既に有罪の根拠に矛盾があると分かっていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米・イランが間接協議、域内情勢のエスカレーション回

ワールド

ベトナム共産党、国家主席にラム公安相指名 国会議長

ワールド

サウジ皇太子と米大統領補佐官、二国間協定やガザ問題

ワールド

ジョージア「スパイ法案」、大統領が拒否権発動
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    「裸に安全ピンだけ」の衝撃...マイリー・サイラスの過激衣装にネット騒然

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 6

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 7

    「すごく恥ずかしい...」オリヴィア・ロドリゴ、ライ…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    日本とはどこが違う? 韓国ドラマのオリジナルサウン…

  • 10

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 4

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 5

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 6

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 9

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中