最新記事

ヘルス

「他にやることは何もない」はずなのにコンドームが売れない!

2022年1月12日(水)19時12分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

写真はイメージ Photoboyko-iStock

<メーカーはガッカリ。コロナによる心へのナーバスな影響はもちろんだが、実はコンドームの売り上げ不振は物流によるものもある>

ビッグチャンス到来のはずが...

新型コロナウイルスによるパンデミックでロックダウンが始まった2年前、家にいるなら「セックスする以外に何もない」と思った人もいただろう。世界で販売される5分の1を製造する最大のコンドームメーカーであるマレーシアのカレックス(Karex)最高経営責任者ゴーミアン・キアット(GohMiah Kiat)氏もその一人で、彼は大きなビジネスチャンスに胸を高鳴らせていた。

しかしそれはぬか喜びだった。カレックスの売上高は過去2年間で40%減少。パンデミック期間に「安全」で「レクリエーション的」なセックスは、閉ざされた世界では決して簡単なことではないと判明した。

大口取引先が停止

カレックス同様に他のコンドームメーカーも振るわなかった。「デュレックス(Durex)」の製造元であるレキットベンキーザーの最高経営責任者であるラックスマン・ナラシムハン(Laxman Narasimhan)は、世界各地でロックダウンが始まりつつあった2020年4月には、性交渉の減少、不安レベルの増加、親密な機会の減少に伴い、コンドームの売り上げが落ちていることにすでに気づいていた。

コロナによる心へのナーバスな影響はもちろんだが、実はコンドームの売り上げ不振は物流によるものもある。つまり、性交渉が行われる場所への移動が阻害され、目的地の施設も稼働していない。カップルのセックスで使われるホテルやモーテル、旅先でのセックス、不貞のセックス...狭い家に大人数で暮らしている夫婦はホテルに頼ることも多かった、と前述のキアット氏。

またこの時に起きた重要なことは、政府と援助機関によるコンドームの配布停止だ。「たとえば、英国では、国民保健サービス(NHS)は、コビッドのためにほとんどの不要なクリニックを閉鎖し、コンドームを配る性的ウェルネスクリニックも閉鎖された」。これに伴って性的健康プログラムの一環として行なっていたコンドームの購入と配布を一時的に停止した。

政府と非営利団体は毎年何十億もの同大な単位でコンドームを購入しているから、影響は凄まじい。中国は家族計画プログラムの一環として毎年10億個のコンドームを無料で配ったり、ニューヨーク市では、毎年3,000万個以上のコンドームやその他の安全なセックス製品を提供してきた。

2016年、国連合同エイズ計画(UNAIDS)は2020年までに低中所得国で年間200億個のコンドームを購入し、配布することを目指しドナーを呼びかけ、2018年にはAIDSヘルスケア財団が37か国で6億個のコンドームを配布し。同年、全米家族計画連盟(PPFA)は3億ドルを支払った。

このような大規模なプログラムの中断と減速で、カレックスは2013年以来初めて通年で損失を計上した。そして2022年、レジャーや観光、航空産業への復活を切実に期待するのはコンドーム産業かもしれない。人々が自宅の寝室から抜け出す日をいまかと待ちわびている。

【参考記事】ニューヨーク当局が新型コロナ時代のセックス指針を公開「最も安全な相手は自分自身」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米EV税控除、一部重要鉱物要件の導入2年延期

ワールド

S&P、トルコの格付け「B+」に引き上げ 政策の連

ビジネス

ドットチャート改善必要、市場との対話に不十分=シカ

ビジネス

NY連銀総裁、2%物価目標「極めて重要」 サマーズ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受ける瞬間の映像...クラスター弾炸裂で「逃げ場なし」の恐怖

  • 2

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS攻撃「直撃の瞬間」映像をウクライナ側が公開

  • 3

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を受け、炎上・爆発するロシア軍T-90M戦車...映像を公開

  • 4

    テイラー・スウィフトの大胆「肌見せ」ドレス写真...…

  • 5

    サプリ常用は要注意、健康的な睡眠を助ける「就寝前…

  • 6

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 7

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミ…

  • 10

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる4択クイズ

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 6

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 7

    屋外に集合したロシア兵たちを「狙い撃ち」...HIMARS…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 10

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中