最新記事

SNS

お粗末な「物量作戦」に頼ってきた中国の「SNS工作活動」に、洗練の兆し

Tweeting Into the Void

2022年1月7日(金)17時31分
ジョシュ・ゴールドスタイン ルネ・ディレスタ(米スタンフォード大学インターネット観測所)

220111p30_tiv02.jpg

中国の工作はどこに潜んでいるか分からない TINGSHU WANG-REUTERS

海外向けのプロパガンダを外部委託して効果を上げている国は多い。例えばロシアは、宣伝工作活動を政府部内(軍の情報部)から民間組織(IRA)に移し、第三国に拠点を築かせ、標的とする国で、何も知らない国民を雇って仕事をさせている。

中国政府がこうした事例に学ぶなら、彼らの宣伝工作も今後は量より質(反応の中身や実際のフォロワー数、プラットフォームの継続性など)を重視するようになるだろう。

第3は、中国がネット上の宣伝工作に関してまだ発展途上である可能性だ。

実際、中国側はまだツイッターを使った宣伝工作にそれほど習熟していないように見える。偽アカウントで偽の情報をばらまき、あたかも自然に拡散しているかのように見せ掛けるのは、初歩的な戦術にすぎない。

もちろん中国には、何十年もかけて構築した対外情報工作のインフラがあり、それは放送や印刷媒体からデジタル分野にまで広がっている。

ツイッターに関しては、そんな秘密工作よりも正面切って「戦狼」外交官のアカウントから挑発的な言葉を発信するのが有効と考えているかもしれない。こうした発信を拡散させるため、多くの偽アカウントを開設してもいる。

ただしAP通信とオックスフォード・インターネット研究所の調査によると、こうした外交官の戦闘的な声を増幅するアカウントの一部は、規約違反を理由にツイッターが閉鎖している。

侮れない近年の中国工作の実力

そのせいもあってか、今の中国はネット上のインフルエンサーやユーチューバーの活用に目を向け始めたようだ。

もしもこれが本当に動きだしたら厄介だ。中国には膨大なリソースと比較的安価な労働力があるため、戦略の変化によって、偽情報の全体的な状況が大きく変わりかねない。共産党寄りの発言をするインフルエンサーが増えてくれば、ツイッターを含むSNSのプラットフォームは難しい対応を迫られるだろう。

いずれにせよ、現在進行形の情報工作に対する評価には慎重を期す必要がある。見えやすい情報(削除されたアカウントの数など)だけで判断すると状況を見誤る。

12月に閉鎖されたアカウント群は、「質より量」のお粗末な工作活動だったかもしれない。だがもっと本気の、手の込んだ情報操作がどこかで、人知れず行われている可能性も考慮すべきだ。

私たちのような外部の人間が気付けるのは中国共産党の重層的な宣伝工作のほんの末端部分にすぎないかもしれない。油断は禁物だ。

それでも、これだけは言える。閉鎖されたアカウント群の調査で、物量作戦では必ずしも所期の効果を得られないことが判明した。中国側は新疆ウイグル自治区の問題について、圧倒的な物量作戦で自国のメッセージを英語で発信しているが、幸いにして英語圏の人たちがそれに同調している様子は、少なくとも今のところ、見られない。

From Foreign Policy Magazine

20240521issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年5月21日号(5月14日発売)は「インドのヒント」特集。[モディ首相独占取材]矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディの言葉にあり

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

台湾の頼次期総統、20日の就任式で中国との「現状維

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部で攻勢強化 米大統領補佐官が

ワールド

アングル:トランプ氏陣営、本選敗北に備え「異議申し

ビジネス

日本製鉄副会長が来週訪米、USスチール買収で働きか
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバいのか!?

  • 4

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 5

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 6

    チャールズ英国王、自身の「不気味」な肖像画を見た…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    時速160キロで走行...制御失ったテスラが宙を舞い、4…

  • 9

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 10

    英供与車両から巨大な黒煙...ロシアのドローンが「貴…

  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 9

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 10

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中