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中国「サラミ戦術+ドローン」が台湾を挑発する

TAIWAN ON THE BRINK?

2022年1月8日(土)10時45分
トビアス・バーガーズ(慶應義塾大学サイバー文明研究センター特任助教)、スコット・N・ロマニウク(カナダ・アルバータ大学中国研究所フェロー)

中国の厄介な「サラミ戦術」

フォーブス誌の軍事担当記者デービッド・アックスによれば、中国空軍は2021年8月、沖縄南方で行われた米英軍と日本の海上自衛隊の共同訓練の偵察にUAVを使用した。

中国が、台湾海峡での作戦にUAVを使う能力と理由があることは確実だ。台湾海峡での主要な作戦は、当然ながらADIZ侵入になる。

UAV配備については運用面だけでなく、中国にとって戦術面でも妥当かどうかを検証する必要がある。

中国は長年にわたり「サラミ戦術」を取ってきた。これは「サラミを薄く切るように少しずつ状況を変えていけば抵抗が少ない」という意味で、中国はADIZをめぐっても既成事実を少しずつ積み重ねることで最終的な権益を手に入れようとしている。

さらに筆者らは、無人システムが中国のグレーゾーン戦略にいかに適しているかを論証してきた。特にADIZ侵入への対応策が確立されていない場合、無人システムは厄介だ。

これらの点は台湾海峡についても当てはまる。

従って、中国がサラミ戦術の枠組みを拡大しながらグレーゾーン戦略をうまく用いた場合、UAV、場合によってはUCAVの導入は中国にとっては理想的な戦略となる。中国が実際に使用する可能性は高い。

こうしたシステムをADIZ侵入に組み込むのは、長期的なプロセスを中国が少しずつ進めている表れとも考えられる。

既に侵入部隊は徐々に数を増やし、航空機のレベルも上がってきた。以前は主に戦闘機が使用されていたが、最近は核搭載爆撃機、早期警戒管制機、対潜哨戒機なども導入されている。

これらのほぼ全ては、中国が台湾との紛争に突入した場合に使用し得る航空機だ。

UAV(あるいはUCAV)の導入は、侵入部隊の質の向上を目指す上で理にかなった措置になるだろう。台湾海峡上空および台湾領空への侵入を正当化し、さらには常態化を狙う中国にとって有益なはずだ。

「夢遊病症候群」に注意せよ

ただしUAV使用の可能性は、グレーゾーン戦略の中でのものとして理解する必要がある。国籍を示す印がなく、誰も搭乗していないため、UAVとの直接のコミュニケーションは不可能だ。この点が大きな混乱や誤解につながりかねない。

UAVとコミュニケーションを取り得る唯一の方法は、軍または外交のチャンネルだ。その場合は、いかなる情報の伝達も台湾側の戦闘機のパイロットから指揮系統の上流に向かって行われ、そこから中国側のトップに渡り、個々のUAV操作担当者へ下りてくることになる。

このプロセスに必要な時間が、中国空軍にとっては重要だ。情報伝達が進む間、UAVを台湾のADIZのさらに奥まで(あるいは台湾領空内にまで)侵入させられるからだ。中国は本土と台湾の双方に向けて技術力をアピールし、空軍がその気になれば台湾領空のさらに奥深くに侵入できることも伝えられる。

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