最新記事

イーロン・マスク

スペースXに「紛れもない破産リスク」 イーロン・マスクが内部レターで警告

2021年12月6日(月)16時20分
青葉やまと

ラプターエンジンの生産ペースを引き上げられなければ...... REUTERS/Steve Nesius

<従業員向けのレターで、生産問題による破産のリスクを指摘。レターが米メディアに漏洩し、マスク氏は補足に追われた>

ニュース専門局の米CNBCは11月30日、宇宙開発ベンチャー「スペースX」のイーロン・マスクCEOが従業員に送ったレターを入手した。

レターのなかでマスク氏は、ラプターエンジンの生産ペースを引き上げられなければ、スペースXは「紛れもない破産のリスク」に晒されるだろうと述べている。同社は事業の中核として超大型ロケット「スターシップ」の開発を急いでいるが、その打ち上げの要となるラプターエンジンの生産問題に苦しんでいる。

レターは従業員に対し、生産ペースの悪化がこれまで同社が把握していたよりも「はるかに深刻」であると告げている。前任のマネジメント職の退職を受けて問題の仔細を分析した結果、報告を受けていたよりも重大な問題を抱えていたことが判明した、と氏は述べている。

メールはアメリカにおける重要な祝日である感謝祭の週末に送信された。マスク氏はレターのなかで「週末は休暇を取る予定だったし、これは私にとって久しぶりに休める週末になるはずだった。だが、週末は夜通しラプターの製造ラインにいることにした」と述べ、ひっ迫した状況を強調している。

カリフォルニアに拠点を置く技術サイト『インタレスティング・エンジニアリング』は本件を報じ、破産の可能性は現実的に排除できないとの認識を示した。

同誌は宇宙科学の専門的トピックを解説するティム・ドッド氏の見解を引用し、「スペースXの今後のプロジェクトのほとんどがスターシップに依存していることから、同社はキャッシュフローに問題を抱えることが考えられる」と述べている。

また、同誌はこの説が「ありそうにないシナリオに感じられるかもしれない」としたうえで、パンデミックにより(資金調達の)不確実性が増している現状を鑑みると、「(破産の可能性を)排除することもまたできない」と指摘している。

高出力目指すエンジン、生産問題は「災害」級

ラプターエンジンは、スペースXが独自に開発・製造するロケットエンジンだ。ケロシンなど一般的な燃料ではなく、液体メタンを燃焼させる設計を取り入れている。ケロシンよりも高い推進力を得やすく、大量のペイロードを搭載できることから経済面で有利だ。

燃焼時のすすの発生も非常に少ないため、同社ビジネスの要となるエンジンの再利用という視点でも利がある。また、スペースXは将来的に火星との往復も視野に入れており、復路の燃料となるメタンを火星で調達することも不可能ではない。こうした利点が見込まれる反面、野心的な設計が仇になり、製造は難航している。

衛星インターネット網「スターリンク」をビジネスとして軌道に乗せるうえでも、ラプターの安定した製造は急務だ。現在展開中のスターリンクV1型は、スペースXに十分な利益をもたらしていない。同社は次期V2型で帯域を増強し、さらに一度の打ち上げで最大400基を送り出すことで利幅を確保する方針だ。400基を一度に打ち上げるうえで、ロケットを現在使用しているファルコン9から超大型のスターシップに切り替えることは必須となる。

SpaceX's Starlink 2.0 - Faster Speeds, Greater Coverage and More


スターシップは2段構えとなっており、第1段ブースターの「スーパーヘビー」に29基(将来的に33基に増強)のラプター、第2段の宇宙船本体である「スターシップ」に6基のラプターを搭載する。つまり、少なくとも再利用に十分な数が出揃うまでは、1回の打ち上げを実現するたびに都合39基の製造が必要となる計算だ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

南ア、イスラエルのラファ攻撃「阻止する必要」 国際

ビジネス

マイクロソフト、中国の一部従業員に国外転勤を提示

ビジネス

先進国は今のところ賃金と物価の連鎖的上昇回避、バー

ワールド

北朝鮮の金与正氏、ロシアとの武器取引否定 「ばかげ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇跡とは程遠い偉業

  • 4

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、…

  • 5

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 6

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 7

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 8

    半分しか当たらない北朝鮮ミサイル、ロシアに供与と…

  • 9

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 10

    総額100万円ほどの負担増...国民年金の納付「5年延長…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 10

    「終わりよければ全てよし」...日本の「締めくくりの…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中