最新記事

中国

中国は「WTOの問題児」は嘘...はるかに身勝手なのがアメリカと示す「数字」

WTO CHANGES CHINA

2021年12月21日(火)17時45分
魏尚進(ウエイ・シャンチン、コロンビア大学経営大学院教授、元アジア開発銀行チーフエコノミスト)
中国WTO加盟式典

WTO加盟で中国はそれなりに大人に(2001年の署名式典) REUTERS/AFLO

<2001年にWTOに加盟した中国は、その後も加盟国の責任を果たしていないと非難されることが多いが、そうした主張は正当なのかをデータで読み解く>

去る12月11日で中国のWTO(世界貿易機関)加盟から20年が経過した。しかし国際社会に祝賀ムードはなく、むしろ中国は加盟国の責任を果たしていないとか、世界貿易のルールを無視して自国の経済成長を追求しているとかの議論が蒸し返されている。言うまでもないが、この議論はWTO体制そのものの評価に直結する。

前米大統領ドナルド・トランプはWTO否定派の急先鋒で、その紛争解決システムを無能と切り捨て、ルール違反の貿易戦争を繰り広げた。現職のジョー・バイデンも、これまでのところWTOの強化や改革に前向きとは言えず、相変わらず中国のルール違反に対する非難を繰り返している。しかし、データの示すところは違う。身勝手な主張でWTOへの誤解と不信を増長させているのは米政府だ。

むろん、中国経済には今もさまざまな問題がある。例えば造船産業に関して、中国は累計5400億元(約860億ドル)もの補助金を政策的に投下してきた。結果、中国の造船業界は商船分野で世界最大になった。だが、この政策がどれほど経済成長に寄与したかを正確に見積もるには、その機会費用と造船産業のもたらす副次的利益を見比べる必要がある。

米コーネル大学のパンレ・バーウィックらの研究によれば、この15年間の補助金投入で造船産業には1000億元、船主には180億元の追加利益がもたらされた。だがこれだけでは補助金総額の半分にも満たない。副次的利益の総額は算定し難いが、多めに見積もっても1000億元くらいだ。そうであれば差し引きではむしろマイナスで、中国経済の成長を加速するどころか、足を引っ張ってきたことになる。

WTO加盟国が中国を提訴した件数

一方、今も中国経済には多様な規制が残っているが、国内の民間企業にとっても外国企業にとっても、多くの分野で参入障壁が低くなってきたのは事実。WTO加盟後の一連の開放政策が、中国の急速な経済成長を可能にしてきたと言える。

中国がWTOのルールを守っていないという議論も、その多くは誤解に基づいている。米トランプ政権は、中国が他の加盟国よりも頻繁にルール違反を繰り返していると主張し、あの国がルールに従わない以上、アメリカも対抗上、WTOのルールを無視した政策(懲罰的関税など)を取らざるを得ないと主張していた。

だが実際のところ、中国の行状は他の加盟国に比べて見劣りするほど悪くはない。WTO加盟国が中国を提訴した件数を見れば分かる。この20年間で、中国を相手取った提訴は47件(全体の約12%)。対してアメリカは同じ期間に2倍以上(全体の約28%)も提訴されている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

日経平均は反発、米物価指標を前に方向感欠く 個別物

ビジネス

ソニーGの今期、5.5%の営業増益見通し 1株を5

ビジネス

出光、6.5%・700億円上限に自社株買い 全株消

ビジネス

シャープ、堺ディスプレイプロダクト堺工場の生産を停
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 2

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少子化の本当の理由【アニメで解説】

  • 3

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 4

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 5

    年金だけに頼ると貧困ライン未満の生活に...進む少子…

  • 6

    「ゼレンスキー暗殺計画」はプーチンへの「贈り物」…

  • 7

    アメリカからの武器援助を勘定に入れていない?プー…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    「人の臓器を揚げて食らう」人肉食受刑者らによる最…

  • 10

    ブラッドレー歩兵戦闘車、ロシアT80戦車を撃ち抜く「…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地ジャンプスーツ」が話題に

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「恋人に会いたい」歌姫テイラー・スウィフト...不必…

  • 7

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 8

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 9

    日本の10代は「スマホだけ」しか使いこなせない

  • 10

    ウクライナ防空の切り札「機関銃ドローン」、米追加…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 6

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 7

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中