最新記事

気候変動

北極の成績表が示した「地球のエアコン」の危機

Rain at Greenland Summit Station, Beaver in the Arctic Area Cause for Alarm

2021年12月16日(木)22時27分
ゾーエ・ストロズースキ
グリーンランドの氷

危機の象徴としてグリーンランドの氷山から英グラスゴーのCOP26に運ばれた氷(11月3日) Hannah McKay-REUTERS

<グリーンランドの山頂で雨が降り、アラスカの川がビーバーのダムだらけに>

米海洋大気局(NOAA)が先週発表した2021年版「北極レポートカード」で、北極圏のエコシステムが危機的な状況にあることが明らかになった。

2021年版レポートカードは2020年10月〜2021年9月に12カ国の研究チームが発表した査読付きの論文データを過去の記録と比較してまとめたもの。観測年度末の2021年夏には、グリーンランドの氷床にある気象観測所「サミットステーション」で、降雪ではなく初めての降雨が観測された。

サミットステーションはグリーンランド中心部の標高3000メートルを超える山頂近くに位置し、気温が氷点下を上回ることは稀だ。雪は降るにしても、雨が降るのは観測史上初めてのこと。気象学者は地球温暖化の進行を示す「危険信号」と受け止めている。

2021観測年度に記録された北極圏の最高気温は観測史上7番目の高さにとどまった。だが年度初めの2020年10月〜12月にはこの地域の気温は平年より高めで推移し、「史上最も暖かい北極圏の秋」となった。

ビーバーのダムで永久凍土が融解

NOAA傘下の雪氷データセンターの研究員で、レポートカードの作成に加わったトゥワイラ・ムーンによれば、グリーンランドの変則的な気象パターンは、北極圏全体の状況を示す指標となる。「観測史上最高の気温が記録されたら、温暖化の影響だと騒ぐが、そうでなければ大丈夫だと多くの人が思っている。これは大きな勘違いだ」と、ムーンは言う。

「今年7月段階で、グリーンランドの氷床の状態はどうかと聞かれたら、私は『全く問題なし』と答えただろう。意外にも、その頃までは平年の夏と変わらない状態が続いていたからだ。ところが7月末から8月にかけて、極端な融解が進み、次々と新記録が樹立され、ついにはグリーンランドの最も高い山頂で雨が降るという前代未聞の異変が起きた」

ムーンによると、ビーバーの異常繁殖も心配のタネだ。温暖化のためビーバーが生息地をどんどん北に広げているのだ。アラスカ州西部の川ではビーバーが作ったダムが20年前の2倍に当たる1200も見つかっている。

ビーバーのダムで川の水がせき止められて、周囲にあふれれば、永久凍土の融解がさらに進む。凍土が解ければ地盤が緩んで、道路や建物などのインフラが使い物にならなくなる。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロ中、ガス輸送管「シベリアの力2」で近い将来に契約

ビジネス

米テスラ、自動運転システム開発で中国データの活用計

ワールド

上海市政府、データ海外移転で迅速化対象リスト作成 

ワールド

ウクライナがクリミア基地攻撃、ロ戦闘機3機を破壊=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:インドのヒント
特集:インドのヒント
2024年5月21日号(5/14発売)

矛盾だらけの人口超大国インド。読み解くカギはモディ首相の言葉にあり

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 2

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 3

    存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

  • 4

    羽田空港衝突事故で「日航の奇跡」を可能にした、奇…

  • 5

    「円安を憂う声」は早晩消えていく

  • 6

    老化した脳、わずか半年の有酸素運動で若返る=「脳…

  • 7

    アメリカはどうでもよい...弾薬の供与停止も「進撃の…

  • 8

    共同親権法制を実施するうえでの2つの留意点

  • 9

    日鉄のUSスチール買収、米が承認の可能性「ゼロ」─…

  • 10

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 1

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などできない理由

  • 2

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する悲劇の動画...ロシア軍内で高まる「ショットガン寄越せ」の声

  • 3

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 4

    大阪万博でも「同じ過ち」が繰り返された...「太平洋…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国…

  • 9

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 7

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 10

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中