最新記事

気候変動

気候変動による文明の滅亡に備えて、地球の今を記録する「ブラックボックス」

2021年12月13日(月)19時05分
松岡由希子

「アースブラックボックス」のイメージ図 Earth's Black Box

<気候変動などによって文明が滅亡する事態に備え、この時代に地球で何が起こっていたのかを後世に伝えるための「ブラックボックス」設置がすすめられている>

豪タスマニア大学、豪広告代理店クレメンジャーBBDO、クリエイティブ企業グルー・ソサエティの共同プロジェクトは、豪州本土の南方海上に位置するタスマニアで、長さ10メートル、幅4メートル、高さ3メートルの石柱状の「アースブラックボックス」の設置をすすめている。

気候変動や環境汚染などのデータを継続的に記録・保存

「アースブラックボックス」は、気候変動などによって文明が滅亡する事態に備え、この時代に地球で何が起こっていたのかを後世に伝えるべく、気候変動や環境汚染、種の絶滅などにまつわるデータを継続的に記録し、長期にわたって安全に保存する。

いわば、航空事故が発生した際の原因調査に備えて飛行機に装備されている「ブラックボックス」のようなコンセプトだ。大気中の二酸化炭素濃度、地温、海水温、海水の酸性度、土地利用変化、人口、エネルギー消費量などの定量データに加え、ニュース記事やSNSの投稿といった文脈情報も収集する。

厚さ7.5センチの鋼鉄製の「アースブラックボックス」は、片方の端部を固定し、他端を自由にする「片持ち梁」で設置される。大量の記憶装置がおさめられ、インターネットと接続し、関連する情報やデータをリアルタイムで収集する仕組みだ。必要な電力は、屋根に装着された太陽光パネルで発電してまかなう。開発者によれば、今後30~50年分のデータ保存に十分な容量が確保されているという。

Earth's 'indestructible' black box will hold climate change data, track progress


「アースブラックボックス」は2022年前半に竣工する見込みだ。すでに2021年11月には、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の開催に合わせて、ベータテストでデータの収集を開始した。公式ウェブサイトでは、その記録状況がライブで公開されている。

現代の「ノアの箱舟」、世界種子貯蔵庫や微生物版の構想も

文明の滅亡に備えて現代を後世に残そうという取り組みとしては、作物多様性を保護するべく2008年にノルウェー領スッピツベルゲン島で開設された「スヴァールベル世界種子貯蔵庫」が知られている。2018年には、米ラトガース大学の研究チームによって、微生物の多様性を保全する「微生物版ノアの方舟」の構想も示された。

Exploring the Arctic's Global Seed Vault


これらは最悪の事態が起こった際のバックアップの保護を目的としているのに対し、「アースブラックボックス」は、最悪の事態へ向かう世界の軌跡を記録し続ける。

クレメンジャーBBDOのエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのジム・カーティス氏は、その狙いについて「もしも気候変動によって地球の機能が停止しても、この『ブラックボックス』があれば、残された人が一連の記録から学べる」と語る。また、グルー・ソサエティの共同創業者ジョナサン・ニーボン氏は、「『ブラックボックス』によって自分たちが記録されていると認識することで、人々の言動に影響がもたらされるはずだ」との期待も寄せている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米新規失業保険申請、20万8000件と横ばい 4月

ビジネス

米貿易赤字、3月は0.1%減の694億ドル 輸出入

ワールド

ウクライナ戦争すぐに終結の公算小さい=米国家情報長

ワールド

ロシア、北朝鮮に石油精製品を輸出 制裁違反の規模か
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 8

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 9

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 10

    「みっともない!」 中東を訪問したプーチンとドイツ…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 5

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中