最新記事

ドイツ

ドイツも部分的ロックダウン ワクチン普及70%でも感染拡大のなぜ

2021年11月24日(水)15時50分
モーゲンスタン陽子

一方、東部のテューリンゲン州とザクセン州では話が異なる。これらの地域では極右政党AfDの支持率が極端に高い。9月の総選挙で30%以上を獲得しAfDが最強の党となったザクセンでは接種率わずか52%だ。AfDは以前から政府の対コロナ措置に非協力的だ。ザクセンと、最高接種率・最低発生率の北部ブレーメン州を比較すると、ブレーメンではAfDへの支持も7%未満と非常に低く、見事に対照的な結果となっている。

また、教育水準の低さが右翼的思想と結び易いことはドイツに限らず以前から世界中で指摘されているが、ベルリンのフンボルト大学社会科学研究所のハイケ・クレーバー教授も、今年3月に2万人以上を対象に行われた調査に基づく結果として「教育とワクチン拒否に著しい相関性がある。教育レベルが低いほど拒絶も高い。そしてワクチンを拒否する人はAfDへの投票率が高く、右翼思想である傾向が高い。加えて、政治や政府、メディア、ヘルスケアシステムへの信頼度が低い」と ドイチェ・ウェレ に語っている。

シュピーゲル・インターナショナルの作成した地図でも、発生率とAfD支持率の関連性は一目瞭然だ。第五波を「反ワクチン主義者のパンデミック」「愚か者のパンデミック」などと呼ぶ政治家や科学者も出てきているなか、ウイルス学者のクリステアン・ドロステンなどはそのような見方に懐疑的で、パンデミックはパンデミックでしかないとしている。

カギはやはりワクチンの更なる普及

ドイツの近況は世界的にも大きく報道されているが、実際のところ、ワクチンを完全接種した身としてはそれほどの不自由や脅威は感じない。基本的なルールさえ守っていれば、そこそこ普通の生活ができる。特に昨年〜今年前半の非常に厳しいロックダウンを耐えたあとでは、なおさらそう感じる。筆者はバイエルン州に暮らしているが、感染は確かに周りでも徐々に増えている。ワクチン完全接種済みの人でも罹っているし、児童の感染も多いようだ。

ただ、昨年以上に感染が多いからといってワクチンに懐疑的になるのは短絡的だ。現在猛威を奮っているのはおもにデルタ変異株であり、昨年の今頃とは状況が違う。昨年はテストセンターや自己テストなども今ほど普及していなかったため、未報告のケースも多かったと思われる。また1年前は、接触制限や外出制限、さらには夜間外出禁止令など、現在よりもはるかに厳しい規則があった。一方現在は、感染は増えていても死亡するケースは減少している。

カギはやはりワクチンの更なる普及だろう。現在入院中の患者のほとんどがワクチン未接種者か、60歳以上の高齢者だ。高齢者は早くにワクチンを接種したが、接種後の免疫反応の低下が若者より早い。

さらに、人々の気の緩みもある。先月、他州でライブハウスのギグに行ったが、2Gイベントとはいってもマスクなしの蜜の状態で何時間も過ごすのは、あとから考えると気持ちのいいものではなかった。ワクチンを接種していてもウイルスを拡散する可能性はあるし、パスポート有効化のための偽造コードもかなりの数出回っており、実際に2Gイベントでのクラスター発生も起こっている。

ワクチンが完全ではないにしても、接種率と感染率増加の関連性がこれだけ明白に出ているのだから、ワクチンは接種すべきだろう。ただ、反ワクチン派への非難が高まるなか、何らかの理由でワクチンを接種できない人々への更なる配慮も必要と思われる。

バイエルン州では24日0時からさらに厳しい制限が敷かれる。今週は親しいアメリカ人友人宅にサンクスギビングの祝宴に呼ばれているが、個人宅での集いにも2G+が当てはまる。ワクチン未接種者にはさらに、最高2家族5人までの接触制限が課される。

Germany's COVID crisis stretches hospitals to the limit | DW News

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

神田財務官、介入有無コメントせず 過度な変動「看過

ワールド

タイ内閣改造、財務相に前証取会長 外相は辞任

ワールド

中国主席、仏・セルビア・ハンガリー訪問へ 5年ぶり

ビジネス

米エリオット、住友商事に数百億円規模の出資=BBG
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われた、史上初の「ドッグファイト」動画を米軍が公開

  • 4

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 5

    目の前の子の「お尻」に...! 真剣なバレエの練習中…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    メーガン妃の「限定いちごジャム」を贈られた「問題…

  • 8

    19世紀イタリア、全世界を巻き込んだ論争『エドガル…

  • 9

    美女モデルの人魚姫風「貝殻ドレス」、お腹の部分に…

  • 10

    ロシア軍「Mi8ヘリコプター」にウクライナ軍HIMARSが…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 10

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中